一次元マップのリアプノフ指数
📂動力学一次元マップのリアプノフ指数
定義
スムースな1次元マップf:R→Rの一つのオービット{x1,x2,x3,⋯}が与えられたとしよう。
リアプノフ数
次をリアプノフ数Lyapunov numberと呼ぶ。
L(x1):=n→∞lim(i=1∏n∣f′(xi)∣)1/n
リアプノフ指数
次をリアプノフ指数Lyapunov exponentと呼ぶ。
h(x1):=n→∞limn1i=1∑nln∣f′(xi)∣
リアプノフ指数はよくλでも表される。
説明
直感的定義
リアプノフ数の直感的な概念は、「初期条件のわずかな差が遠い未来にどれだけ大きな影響を与えるか」と見ることができる。初期条件x1とごくわずかな距離δ1≈0だけ離れたx1+δ1でそれぞれnの時間が経過した後の距離を
δn:=fn(x1+δ1)−fn(x1)
と表すことにしよう。ここで∣δn∣≈∣δ1∣enλのとき、λをリアプノフ指数と定義することもできる。リアプノフ指数が0以上であればその値が大きいほど∣δ1∣と∣δn∣の差が大きくなり、初期条件の差が遠い未来に大きな影響を与えることになり、0より小さければその値が小さいほど二つの値が類似しており、初期条件の差が遠い未来に少ない影響を与えることになる。λについてさらに式を展開すると、両辺にログを取って
∣δn∣≈∣δ1∣enλ⟹ln∣δn∣≈ln∣δ1∣nλ
であり、
λ≈=≈n1lnδ1δnn1lnδ1fn(x1+δ1)−fn(x1)n1ln(fn)′(x1)
である。一方で(fn)′(x1)はチェーンルールによって
(fn)′(x1)======[f(fn−1)(x1)]′(fn−1)′(x1)⋅f′(fn−1(x1))(fn−1)′(x1)f′(xn)(fn−2)′(x1)⋅f′(fn−2(x1))f′(xn)(fn−2)′(x1)⋅f′(xn−1)f′(xn)⋮k=1∏nf′(xk)
なので
λ≈==n1ln(fn)′(x1)n1lnk=1∏nf′(xk)n1k=1∑nln∣f′(xk)∣
となるため、十分に大きなn∈Nに対して次のような近似を導出することができる。
λ≈n1k=1∑nln∣f′(xk)∣≈N→∞limN1k=1∑Nln∣f′(xk)∣=h(x1)
カオス理論
シンクとソースの概念を再考すると、シンクは近くの点が集まる一種の「収束点」、ソースは近かった点がだんだんと離れていく一種の「発散点」と見ることができる。これは、ピリオディックオービットに対しても同様に拡張することができた。
オービットのシンクとソースの判別法: > fのピリオディック-kオービットを{p1,p2,⋯,pk}としよう。∣f′(p1)⋯f′(pk)∣<1ならば{p1,p2,⋯,pk}はシンクで、∣f′(p1)⋯f′(pk)∣>1ならば{p1,p2,⋯,pk}はソースである。
リアプノフ数は、このような概念をピリオディックなオービット以上に拡張するために導入されたと言える。シンクが安定傾向を示し、ソースが揺らぎを示す拡散を示すと見たとき、微分係数の無限積で表されるL(x1)が1よりも大きければ、実際にx1のオービットがソースであることを暗示している。その点から、リアプノフ指数はカオスという概念を定義するか、以下の定理を提供する。
定理
スムースなマップf:R→Rのオービットのうち、f′(xi)=0を満たす{x1,x2,⋯}がピリオディック-kオービット{y1,y2,⋯,yk,⋯}にアシンプトティックにピリオディックであるとしよう。すると、両方のオービットは同じリアプノフ指数を持つ。
証明
パート1. 数列の平均は元の数列の極限に収束する。
簡単な事実として、n→∞limsn=sならばm∈Zに対してn→∞limsn+m=sが成り立つ。
すると、その平均もsに収束し、数式で表すとn→∞limn1i=1∑nsi=s
パート2.
k=1とすると、y1はfの不動点になる。n→∞limxn=y1でありfがスムースなので
n→∞limf′(xn)=f′(n→∞limxn)=f′(y1)
一方でln∣⋅∣も連続関数なので
n→∞limln∣f′(xn)∣=lnn→∞limf′(xn)=ln∣f′(y1)∣
したがって、パート1.により
h(x1)====n→∞limn1i=1∑nln∣f′(xn)∣n→∞limln∣f′(xn)∣11ln∣f′(y1)∣h(y1)
パート3.
fの下でx1のリアプノフ数がL:=n→∞lim(∣f′(x1)∣⋯∣f′(xn)∣)1/nであるとする。チェーンルールによりi=1,⋯,kに対しては(fk)′(xi)=f′(x1)⋯f′(xk)なので、fkの下でx1のリアプノフ数は
==n→∞lim((fk)′(x1)⋯(fk)’(xn))1/nn→∞lim(∣f′(x1)∣⋯∣f′(xn)∣)k/nLk
計算過程をみると自然に逆も成り立ち、fの下でx1のリアプノフ指数がh=fkの下でx1のリアプノフ指数である。
パート4.
k>1とすると、y1はfkの不動点であり、{x1,x2,⋯}は{y1,y2,⋯,yk,⋯}にアシンプトティックにピリオディックである。
h(x1)====n→∞limn1(ln∣f′(x1)∣+⋯+ln∣f′(xn)∣)n→∞limn1ln(∣f′(x1)∣⋯∣f′(xn)∣)n→∞limk⋅n1ln(∣f′(x1)∣k⋯∣f′(xn)∣k)k1n→∞limln(∣(fk)’(xn)∣)=k1ln(fk)′(y1)
パート2.により、fkの下でx1のリアプノフ指数は
ln(fk)′(y1)
パート3.により、fの下でx1のリアプノフ指数は
h(x1)=k1ln(fk)′(y1)=h(y1)
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関連項目