SIRD モデル:死亡と致死率
概要
SIRDモデルはSIRモデルに死亡を加えた疫学的区画モデルだ。
モデル
$$ \begin{align*} {{d S} \over {d t}} =& - {{ \beta } \over { N }} I S \\ {{d I} \over {d t}} =& {{ \beta } \over { N }} S I - \mu I \\ {{d R} \over {d t}} =& \left( 1 - \delta \right) \mu I \\ {{d D} \over {d t}} =& \delta \mu I \end{align*} $$
変数
- $S(t)$: 時点$t$で感染する可能性があるsusceptible集団の個体数を示す。
- $I(t)$: 時点$t$で病気を伝えることができるinfectious集団の個体数を示す。
- $R(t)$: 時点$t$で回復したrecovered集団の個体数を示す。
- $D(t)$: 時点$t$で死亡したdeath集団の個体数を示す。
- $N(t) = S(t) + I(t) + R(t) + D(t)$: 総個体数を示す。
パラメータ
- $\beta>0$: 伝染率infection rateである。
- $\mu>0$: 回復率recovery rateである。
- $\delta>0$: 致命率fatality rateである。
説明
単純な常微分方程式として見た場合、モデルの中の$R$と$D$には抽象的に全く差がない。シミュレーションをしても$D$の数は単純に$R$に$\delta$で比例するだけで、それ自体に興味を持つのは難しい。このようなコンパートメント$D$が意味を持つのは単純なシミュレーションではなく、フィッティングにある。もし感染者と死亡者のタイムシリーズtime Seriesを持っていれば、$\delta$を未知数としてその推定値である$\hat{\delta}$を見つけることができる。防疫政策を考慮する上で「死」に関する指標は重要になる。
時には、または歴史的に見て、人類はほとんどの感染症に負けてきた。しかし、感染症と戦うことは、より優れたリーダーであるかの競争ではなく、その時代を生きる人々の本当の生活だ。現実では、単に感染症を完全に終息させることだけで勝敗が決まるわけではない。ワクチンが開発されるまでの時間を稼ぐ、経済的コストを最小限にする、または死亡者を減らすことなどが、各防疫戦略の目標となり得る。その中でも死は特に重要であり、$D$を加えることで、死に対する量化と戦略評価が可能になる。
簡単に言うと、「もう少し長く続くかもしれないが死亡者を減らす戦略」のような選択肢が生まれるということだ。
死亡率、致命率、致死率
死亡率mortality rate、致命率fatality rate、致死率lethality という三つの言葉は、死についての統計が言及される時に似たように使われる表現である。しかし、死亡率は病気に限らず広く使われるものであり、特にその病気で死亡したという意味ではないため、感染症の文脈においてはそれほど好まれる言葉ではない。一般人にとっては最も直感的な表現であると同時に、あいまいさも持ち合わせる。比較的専門的な文献では、致命率または致死率(その中でも致命率)という表現を使う。
変形
SIRHDVモデル: 医療サービス
$H$は病院(ベッド)、$V$はSIRVモデルでそうであるようにワクチンを意味する。その違いは
- 病院の場合は$I \to H$、つまり感染者を入院させることでhospitalized,
- ワクチンの場合は$S \to V$、つまりワクチン接種によってvaccinated,
伝播力$\beta SI$ force of infectionを下げるだけでなく、症状の程度も軽症と重症$I = I_{1} + I_{2}$に分けて考慮する。このような医療サービスは、全体的な重症度はもちろん致命率をも低下させる効果があると想定され、その数理モデルはそれらが反映された場合の予想効果を具体的な数字で示すことができる。