行列代数における射影
定義
射影 $P \in \mathbb{C}^{m \times m}$ が $\mathcal{C} (P) ^{\perp} = \mathcal{N} (P)$ を満たせば、 $P$ を 正射影 であるとする。
説明
射影の性質 $\mathbb{C}^{m } = \mathcal{C} (P) \oplus \mathcal{N} (P)$ に従って、 $P$ は $\mathbb{C}^{m}$ を正確に二つの部分空間 $\mathcal{C} (P)$ と $\mathcal{N} (P)$ に分割することが分かる。
この分割で条件 $\mathcal{N} (P) = \mathcal{C} (P) ^{\perp}$ を満たすということは、一次変換 $P$ の零空間 $\mathcal{N} (P)$ が列空間 $\mathcal{C} (P)$ の直交補空間という意味なので、単なる分割ではなく垂直性が含まれる分割であることが分かる。そのような意味で正射影の定義は非常に妥当であると言える。
一方で一次変換 $P$ が正射影であるための必要十分条件は $P$ がエルミート行列であることである。
その証明は思ったより難しくて乱雑なので、学習する際には事実として覚えておくことをお勧めする。
定理
$$ \mathcal{C} (P) ^{\perp} = \mathcal{N} (P) \iff P = P^{\ast} $$
証明
$(\Longrightarrow)$
$\mathbb{C}^{m}$ の正規直交基底が $\left\{ \mathbf{q}_{1} , \cdots , \mathbf{q}_{m} \right\}$ のとき、 $\dim \mathcal{C} (P) = r$ とすると $\mathcal{C} (P)$ の正規直交基底は $\left\{ \mathbf{q}_{1} , \cdots , \mathbf{q}_{r} \right\}$ と置くことができる。 $\left\{ \mathbf{q}_{1} , \cdots , \mathbf{q}_{r} \right\}$ は $\mathcal{C} (P)$ の基底なので $\mathbf{q}_{i} = P \mathbf{v}$ を満たす何らかの $\mathbf {v}$ が存在する。そして、この式に $P$ を掛けると
$$ P \mathbf{q}_{i} = PP \mathbf{v} = P \mathbf{v} = \mathbf{q}_{i} $$
一方で $\mathbb{C}^{m} = \mathcal{C} (P) \oplus \mathcal{N} (P)$ なので、 $\mathcal{N} (P)$ の正規直交基底は $\left\{ \mathbf{q}_{r +1} , \cdots , \mathbf{q}_{m} \right\}$ になるだろう。 $\left\{ \mathbf{q}_ {1} , \cdots , \mathbf{q}_{r} \right\}$ のベクトルで行列 $Q : = \begin{bmatrix} \mathbf{q}_{1} & \cdots & \mathbf{q}_{r} & \mathbf{q}_{r+1} & \cdots & \mathbf{q}_{m} \end{bmatrix}$ を構成すると $Q$ は ユニタリ行列 となり、 $PQ$ を計算すると
$$ \begin{align*} PQ =& P\begin{bmatrix} \mathbf{q}_{1} & \cdots & \mathbf{q}_{r} & \mathbf{q}_{r+1} & \cdots & \mathbf{q}_{m} \end{bmatrix} \\ =& \begin{bmatrix} P \mathbf{q}_{1} & \cdots & P \mathbf{q}_{r} & P \mathbf{q}_{r+1} & \cdots & P \mathbf{q}_{m} \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} \mathbf{q}_{1} & \cdots & \mathbf{q}_{r} & \mathbb{0} & \cdots & \mathbb{0} \end{bmatrix} \end{align*} $$
便宜上 $\widehat{Q} := \begin{bmatrix} \mathbf{q}_{1} & \cdots & \mathbf{q}_{r} \end{bmatrix}$ として、 $PQ = \begin{bmatrix} \widehat{Q} & O \end{bmatrix}$ で表すことができる。 上記で得た式に $Q^{\ast}$ を掛けると
$$ \begin{align*} Q^{\ast} P Q =& \begin{bmatrix} \widehat{Q}^{\ast} \\ \mathbf{q}_{r+1} \\ \vdots \\ \mathbf{q}_{m} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \widehat{Q} & O \end{bmatrix} \\ =& \begin{bmatrix} \widehat{Q}^{\ast} \widehat{Q} & O \\ O & O \end{bmatrix} \\ =& \begin{bmatrix} I_{r} & O \\ O & O \end{bmatrix} \end{align*} $$
$P$ に関して整理すると
$$ P = Q \begin{bmatrix} I_{r} & O \\ O & O \end{bmatrix} Q^{\ast} $$
となり
$$ P^{\ast} = \left( Q \begin{bmatrix} I_{r} & O \\ O & O \end{bmatrix} Q^{\ast} \right)^{\ast} = Q \begin{bmatrix} I_{r} & O \\ O & O \end{bmatrix} Q^{\ast} = P $$
故に $P$ はエルミート行列である。
$(\Longleftarrow)$
$\mathbb{C}^{m } = \mathcal{C} (P) \oplus \mathcal{N} (P)$ より $\mathcal{N} (P) = \mathcal{C} (I-P)$ である。二つのベクトル $P \mathbf{x} \in \mathcal{C} (P)$ と $(I - P) \mathbf{y} \in \mathcal{C} (I - P)$ の内積を計算すると
$$ \begin{align*} ( P \mathbf{x} )^{\ast} (I - P) \mathbf{y} =& \mathbf{x}^{\ast} P^{\ast} ( I - P ) \mathbf{y} \\ =& \mathbf{x}^{\ast} P ( I - P ) \mathbf{y} \\ =& \mathbf{x}^{\ast} ( P - P^2 ) \mathbf{y} \\ =& \mathbf{x}^{\ast} ( P - P ) \mathbf{y} \\ =& \mathbb{0} \end{align*} $$
したがって
$$ \mathcal{C} (P) = \mathcal{C} (I-P)^{\perp} = \mathcal{N} (P)^{\perp} $$
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