線形変換のトレース
定義
$V$を$n$次元のベクトル空間だとする。$f : V \to V$を線形変換だとする。$B = \left\{ e_{i} \right\}$を$V$の基底だとする。$n \times n$行列$A$を$B$に対する$f$の行列表現だとする。
$$ A = [f]_{B} $$
$f(e_{i}) \in V$だから、$f(e_{i}) = \sum f_{j}(e_{i})e_{j}$のように表わそう。そうすると、
$$ A = \begin{bmatrix} f_{1}(e_{1}) & f_{2}(e_{1}) & \cdots & f_{n}(e_{1}) \\ f_{1}(e_{2}) & f_{2}(e_{2}) & \cdots & f_{n}(e_{2}) \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ f_{1}(e_{n}) & f_{2}(e_{n}) & \cdots & f_{n}(e_{n}) \end{bmatrix} $$
線形変換$f$のトレースtrace$\tr f$を以下のように定義する。
$$ \tr f := \tr(A) = \sum_{i} f_{i}(e_{i}) $$
ここで$\tr(A)$は行列$A$の対角和だ。
説明
線形変換には対応する行列が存在するので、線形変換のトレースを自然に定義できる。
基底不変性
- 線形変換のトレースは基底の選択に依存しない。
定義だけ見ると、行列$A$が基底に依存するから、違う基底$B^{\prime}$を選んで行列$A^{\prime}$を得たら、$\tr f$の値が変わりそうだが、二つの行列$A$と$A^{\prime}$は類似である。類似した行列間では対角和が不変なので、$\tr f$は$V$の基底の選択に依存せずによく定義されることがわかる。
内積表現
- アインシュタインの記法を使用する。
$\tr f$を与えられたメトリックで表現できる。メトリック$g$が与えられているとする。そうすると、
$$ g(f(e_{i}), e_{k}) = g( f_{j}(e_{i})e_{j}, e_{k} ) = f_{j}(e_{i}) g( e_{j}, e_{k} ) = f_{j}(e_{i})g_{jk} $$
両辺に$g^{kl}$をかけて、インデックス$k$について足すと、
$$ g^{kl} g(f(e_{i}), e_{k}) = f_{j}(e_{i})g_{jk}g^{kl} = f_{j}(e_{i})\delta_{j}^{l} = f_{l}(e_{i}) $$
したがって、次を得る。
$$ \tr f = f_{i}(e_{i}) = g(f(e_{i}), e_{k})g^{ki} $$