固有値と固有ベクトル
定義1
$n\times n$ 行列 $A$が与えられたとしよう。$\mathbf{0}$でない$n\times 1$列ベクトル$\mathbf{x}$、そして定数$\lambda$に対して、次の式を固有値方程式または固有値問題という。
$$ \begin{equation} A \mathbf{x} = \lambda \mathbf{x} \end{equation} $$
与えられた$A$に対して、上のように固有値方程式を満たす$\lambda$を$A$の固有値と言い、$\mathbf{x}$を$\lambda$に対応する$A$の固有ベクトルという。
説明
上の定義は$\lambda \in \mathbb{R}$、$\mathbf{x} \in \mathbb{R}^{n}$の時だけでなく、$\lambda \in \mathbb{C}$、$\mathbf{x} \in \mathbb{C}^{n}$の時にもそのまま適用される。「$\mathbf{0}$でない」という条件がついているのは、下の式から分かるように、$\mathbf{x} = \mathbf{0}$ならば常に成り立つからだ。
$$ A \mathbf{0} = \mathbf{0} = \lambda \mathbf{0} $$
幾何学的な動機
ベクトル$\mathbf{x}$を行列$A$で変換した$A \mathbf{x}$と$\mathbf{x}$の方向が同じだとすると、何か実数$\lambda$に対して
$$ A \mathbf{x} = \lambda \mathbf{x} $$
が成り立つことになる。行列$A$は本来、どんな方向の概念も持たないが、$A$の固有ベクトルが存在するならば、$A$が何か特有の方向を指していると言えるだろう。だから、このようなベクトル$\mathbf{x}$を固有ベクトルと呼ぶのだ。例えば、以下のような$2\times 2$行列を考えてみよう。
$$ A = \begin{bmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{bmatrix} $$
すると、ベクトル$\begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix}$は$\begin{bmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{bmatrix}$に変換された時、$\begin{bmatrix} 14 \\ 7 \end{bmatrix}$となって方向が同じである。ここでベクトル$\begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix}$に$\lambda = 7$を掛けると、ベクトルの長さも同じになり、固有値方程式
$$ \begin{align*} A \mathbf{x} &= \lambda \mathbf{x} \\ \begin{bmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix} &= 7 \begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix} \end{align*} $$
の形の等式を満たす。このような理由で$\lambda=7$を固有値と呼ぶのだ。よく見ると、固有ベクトルは$\begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix}$を伸ばしたり縮めたりして無数に見つけることができるが、固有値は変わらないことが分かる。だから、$\begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix}$を固有値$7$に対応する$A$の固有ベクトルと表現するのだ。
このように幾何学的に説明した議論を一般的に拡張すると、固有値は代数的に方程式$A \mathbf{x} = \lambda \mathbf{x}$を満たす$\lambda$であり、固有ベクトルは与えられた$\lambda$に対する方程式の非自明な解である。
固有値方程式の解法
固有値を求めることは、固有値方程式から始まる。$(1)$の式を整理すると、次のようになる。
$$ \begin{align*} && A \mathbf{x} &= \lambda \mathbf{x} \\ \implies && A \mathbf{x} - \lambda \mathbf{x} &= \mathbf{0} \\ \implies && A \mathbf{x} - \lambda I \mathbf{x} &= \mathbf{0} \\ \implies && \left( A - \lambda I \right) \mathbf{x} &= \mathbf{0} \end{align*} $$
この時、固有ベクトルは条件$\mathbf{x} \ne \mathbf{0}$を満たさなければならない。上記線形システムが$\mathbf{0}$でない解を持つ同値条件は、$\left( A - \lambda I \right)$の逆行列が存在しないことであり、これは次の式が成り立つことと同値である。
$$ \det (A -\lambda I) = 0 $$
したがって、上の式を満たす$\lambda$が$A$の固有値になる。上記の式を$A$の特性方程式と言い、$\det (A -\lambda I)$は$A$が$n\times n$行列の時、$n$次の多項式になり、これを特性多項式と呼ぶ。
ちなみに、$A+B$の固有値は$A$、$B$の固有値の和と異なる場合があり、$AB$の固有値も$A$、$B$の固有値の積と異なる場合がある。また、方程式の解として固有値を求めることから分かるように、必ずしも実数であるという保証は全くない。
例
固有値を求める
解の例として、再び$A = \begin{bmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{bmatrix}$を考えてみよう。$A-\lambda I = \begin{bmatrix} 6 - \lambda & 2 \\ 2 & 3 - \lambda \end{bmatrix}$なので、$A$の特性方程式を解くと次のようになる。
$$ \begin{align*} && \det (A - \lambda I) &= 0 \\ \implies && (6 - \lambda)(3 - \lambda) - 4 &= 0 \\ \implies && \lambda^2 - 9 \lambda + 18 - 4 &= 0 \\ \implies && (\lambda - 2)(\lambda - 7) &= 0 \end{align*} $$
したがって、$A$の固有値は$\lambda = 2$と$\lambda = 7$である。$2$と$7$を$\lambda$に代入してみると、それぞれの固有値に対応する固有ベクトルを求めることができる。ここでは、$\lambda = 7$の場合のみ紹介する。
$\lambda = 7$に対応する固有ベクトルを求める
$\lambda = 7$を$(1)$に代入して整理すると、次のようになる。
$$ \begin{align*} && \begin{bmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{bmatrix} &= 7\begin{bmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{bmatrix} \\ \implies && \begin{bmatrix} 6x_{1} + 2x_{2} \\ 2x_{1} + 3x_{2} \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} 7x_{1} \\ 7x_{2} \end{bmatrix} \\ \implies && \begin{bmatrix} -x_{1} + 2x_{2} \\ 2x_{1} - 4x_{2} \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} 0 \\ 0 \end{bmatrix} \end{align*} $$
これを解くと、次のようになる。
$$ \left\{ \begin{align*} -x_{1} + 2x_{2} &= 0 \\ 2x_{1} - 4x_{2} &= 0 \end{align*} \right. $$
$$ \implies x_{1} = 2x_{2} $$
したがって、$0$でないすべての$x_{2}$に対して、ベクトル$\begin{bmatrix} 2x_{2} \\ x_{2} \end{bmatrix}$が$\lambda = 7$に対応する固有ベクトルになる。通常、最も単純な形または大きさが$1$になる単位ベクトルを選ぶ。$x_{2} = 1$を代入すると、以下の固有ベクトルを得る。
$$ A = \begin{bmatrix} 2 \\ 1 \end{bmatrix} $$
性質
- 正の整数$k$に対して、$\lambda$が行列$A$の固有値であり、$\mathbf{x}$が$\lambda$に対応する固有ベクトルであれば、$\lambda ^{k}$は$A^{k}$の固有値であり、$\mathbf{x}$は$\lambda ^{k}$に対応する固有ベクトルである。
Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Aplications Version (12th Edition, 2019), p291-292 ↩︎