エルミート行列の固有値は常に実数である
定理
$A$を$n \times n$のサイズを持つエルミート行列としよう。そうすると、$A$の固有値は全て実数である。
説明
一般の行列において、固有値が実数である保証はなく、エルミート行列については、証明を通して実数であることが確認できる。
直感的には思いつきにくいが、証明自体は比較的簡単な方であり、事実としても非常に有用である。正定値性などの概念と組み合わせることにより、様々な良い結果を生むので、是非知っておくべきだ。
証明
$A$の固有値を$\lambda$、それに対応する固有ベクトルを$\mathbf{x}$とする。すると、固有値方程式は以下のようになる。
$$ A \mathbf{x} = \lambda \mathbf{x} $$
両辺の左側に$\mathbf{x}^{\ast}$を乗じると、以下のようになる。
$$ \begin{equation} \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} = \lambda \mathbf{x}^{\ast} \mathbf{x} \end{equation} $$
両辺に共役転置$^{ \ast }$を取ると、共役転置の性質により、以下のようになる。
$$ \begin{align*} \left( \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} \right) ^{\ast} = & \left( \lambda \mathbf{x}^{\ast} \mathbf{x} \right) ^{\ast} \\ \implies \mathbf{x}^{\ast} A^{ \ast } \mathbf{x} = & \overline{\lambda} \mathbf{x}^{ \ast } \mathbf{x} \end{align*} $$
$A$はエルミート行列なので、$A=A^{\ast}$が成り立ち、上の式は以下のようになる。
$$ \begin{equation} \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} = \overline{\lambda} \mathbf{x}^{ \ast } \mathbf{x} \end{equation} $$
$(1)$と$(2)$により、次の式が成立する。
$$ \lambda \mathbf{x}^{ \ast } \mathbf{x} = \mathbf{x}^{ \ast } A \mathbf{x} = \mathbf{x}^{ \ast } A^{ \ast } \mathbf{x} = \overline{\lambda} \mathbf{x}^{ \ast } \mathbf{x} $$
したがって、 $$ ( \lambda - \overline{\lambda} ) \mathbf{x}^{ \ast } \mathbf{x} = 0 $$
しかし、$\mathbf{x}$は固有ベクトルなので、$\mathbf{0}$ではない。したがって、$\mathbf{x}^{\ast} \mathbf{x} \ne \mathbf{0}$である。よって、
$$ \lambda = \overline{\lambda} $$
これは$\lambda$が実数であることを意味する。
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