複素関数のWirtinger微分
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複素関数f:C→Cが与えられたとしよう。複素数z=x+iyは、2つの実数x,y∈Rの線型結合であるため、関数fを2つの実数の変数を持つ関数として考えることができる。さらに、2つの実関数u,v:R2→Rを使って、fの関数値を以下のように実部、虚部に分けて表現することができる。
f(z)=f(x,y)=u(x,y)+iv(x,y)
すると、fの全微分は以下のようになる。
df=du+idv=(∂x∂udx+∂y∂udy)+i(∂x∂vdx+∂y∂vdy)=(∂x∂u+i∂x∂v)dx+(∂y∂u+i∂y∂v)dy
dz、dzˉからdx,dyを求めると、次のように整理できる。
{dz=dx+idydzˉ=dx−idy⟹⎩⎨⎧dx=2dz+dzˉdy=2idz−dzˉ
これを(1)に代入して、次のように整理することができる。
df=(∂x∂u+i∂x∂v)dx+(∂y∂u+i∂y∂v)dy=(∂x∂u+i∂x∂v)(2dz+dzˉ)+(∂y∂u+i∂y∂v)(2idz−dzˉ)=21[(∂x∂u+i∂x∂v)−i(∂y∂u+i∂y∂v)]dz+21[(∂x∂u+i∂x∂v)+i(∂y∂u+i∂y∂v)]dzˉ=21[∂x∂(u+iv)−i∂y∂(u+iv)]dz+21[∂x∂(u+iv)+i∂y∂(u+iv)]dzˉ=21[∂x∂f−i∂y∂f]dz+21[∂x∂f+i∂y∂f]dzˉ=21[∂x∂−i∂y∂]fdz+21[∂x∂+i∂y∂]fdzˉ
この時、最初の項の定数と括弧を∂z∂と表記し、2番目の項の括弧を∂zˉ∂と表記すると、以下のように複素関数fの全微分を自然に表現できる。
df=∂z∂fdz+∂zˉ∂fdzˉ
定義
x,y∈R、z=x+iyとしよう。複素関数f:C→Cが実関数u,y:R2→Rに対してf(z)=f(x,y)=u(x,y)+iv(x,y)のように表されるとする。微分演算子∂z∂、∂zˉ∂を次のように定義する。
∂z∂∂zˉ∂:=21(∂x∂−i∂y∂):=21(∂x∂+i∂y∂)
これを**(共役) Wirtinger 微分演算子**(conjugate) Wirtinger differential operatorと呼び、∂z∂f,∂zˉ∂fを**(共役) Wirtinger 導関数**(conjugate) Wirtinger derivativeという。
説明
Wirtinger 微分演算子をz、zˉに適用すると、次のようになる。
∂z∂z=21(∂x∂−i∂y∂)(x+iy)=21(∂x∂x+∂y∂y)=1
∂zˉ∂zˉ=21(∂x∂+i∂y∂)(x−iy)=21(∂x∂x+∂y∂y)=1
∂zˉ∂z=21(∂x∂+i∂y∂)(x+iy)=21(∂x∂x−∂y∂y)=0
∂z∂zˉ=21(∂x∂−i∂y∂)(x−iy)=21(∂x∂x−∂y∂y)=0
これらの結果から、Wirtinger 微分演算子は、まるでzとzˉが互いに独立した変数であるかのように扱うことができると解釈できる。実際に、fは全てのzに対して微分不可能であるため、dzdfは存在しない。しかし、Wirtinger 演算子は定義により、zˉが含まれる関数も微分することができ、その結果も微分と呼ぶには自然だとわかる。複素幾何学では、Wirtinger 微分を基本として扱うと言われている正則関数について調べると、その意味が従来の微分の意味と完全に同じだからだ。
正則関数について
f:C→Cが正則関数だとしよう。すると、Wirtinger 導関数は次のようになる。
∂z∂f=21(∂x∂−i∂y∂)(u+iv)=21(ux+vy+i(−uy+vx))
微分可能な複素関数はコーシー・リーマン方程式を満たすため、上記の式は次のようになる。
∂z∂f=21(ux+ux+i(vx+vx))=ux+ivx
しかし、複素関数の導関数はf′=dzdf=ux+ivxであるため、以下の式が成り立つ。
∂z∂f=ux+ivx=dzdf
したがって、微分可能な関数fに対しては、∂z∂がdzdと完全に同じ意味を持つようになる。さて、方程式∂zˉ∂f=0を解いてみよう。
∂zˉ∂f=21(∂x∂+i∂y∂)(u+iv)=21(ux−vy+i(uy+vx))=0
実部と虚部が共に0である必要があるため、以下の式が得られる。
⟹{ux=vyuy=−vx
これはコーシー・リーマン方程式と同じである。したがって、∂zˉ∂f=0という式自体がfがコーシー・リーマン方程式を満たしているということと同じである。つまり、以下の命題はすべて同値である。
- fが正則(解析的)である。
- ∂z∂f=0
- fがzに依存しない。
非正則関数について
例えば、絶対値f(z)=∣z∣を含む関数、zが含まれている関数を考えてみよう。これらの関数を最適化するために変化率を知りたいとしよう。しかし、fは微分不可能であるため、dzdfを計算することができず、どのようにfを最適化すべきかがわからない。この場合、Wirtinger 微分を使用すると、傾きと呼ぶことができるものを計算することができる。
∂z∂f=∂z∂zz=z
実際、通信などの工学分野でこのようなテクニックを使用している。
性質
微分と呼ばれるために当然持っているべき性質もよく持っていることが確認できる。
線形性:
∂z∂(af+g)=a∂z∂f+∂z∂g
∂z∂(af+g)=a∂z∂f+∂z∂g
積の微分:
∂z∂(fg)=∂z∂fg+f∂z∂g
∂z∂(fg)=∂z∂fg+f∂z∂g
連鎖律
∂z∂(f∘g)=∂w∂f∂z∂g+∂w∂f∂z∂g
∂z∂(f∘g)=∂w∂f∂z∂g+∂w∂f∂z∂g
さらに、
∂z∂z∂2f=41(∂x2∂2f+∂y2∂2f)=41Δf
dtd(f∘ϕ)=∂z∂f∂t∂ϕ+∂z∂f∂t∂ϕ
この時点で、ϕ:R→Cである。