逆行列と連立一次方程式
定理: 可逆行列であるための同値条件1
$A$をサイズが$n\times n$の正方行列だとする。すると以下の命題はすべて等価である。
(a) $A$は可逆行列である。
(e) $A\mathbf{x}=\mathbf{b}$はすべてのサイズ$n\times 1$の行列$\mathbf{b}$に対して解を持つ。
(f) $A\mathbf{x}=\mathbf{b}$はすべてのサイズ$n\times 1$の行列$\mathbf{b}$に対してただ一つの解を持つ。つまり$\mathbf{x}=A^{-1}\mathbf{b}$が成り立つ。
説明
**(e)と(f)**が等価であることは、すべてのサイズ$\mathbf{b}$の行列$n \times 1$に対して線形システム$A \mathbf{x} = \mathbf{b}$が少なくとも一つの解を持つならば、正確にその解一つだけを持つという意味である。
証明
(a) $\implies$ (f)
$A$が可逆行列だと仮定する。すると$A(A^{-1}\mathbf{b}) = \mathbf{b}$が成り立つ。右辺に$\mathbf{b} = A \mathbf{x}$を代入すれば次のようになる。
$$ \begin{align*} && A (A^{-1}\mathbf{b}) &= A \mathbf{x} \\ \implies && A^{-1}\mathbf{b} &= \mathbf{x} \end{align*} $$
したがって$\mathbf{x} = A^{-1} \mathbf{b}$は$A \mathbf{x} = \mathbf{b}$の解である。今、任意の解を$\mathbf{x}_{0}$とする。すると$A \mathbf{x}_{0} = \mathbf{b}$が成立し、両辺に$A^{-1}$を掛けると$\mathbf{x}_{0} = A^{-1} \mathbf{b}$となるので、解は$\mathbf{x} = A^{-1} \mathbf{b}$で一意である。
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(f) $\implies$ (e)
これは自明である。
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(e) $\implies$ (a)
線形システム$A \mathbf{x} = \mathbf{b}$がすべてのサイズ$n \times 1$の行列$\mathbf{b}$に対して解を持つとする。すると以下の線形システムはすべて解を持つ。
$$ A \mathbf{x} = \begin{bmatrix}1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{bmatrix},\quad A \mathbf{x} = \begin{bmatrix}0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{bmatrix},\quad A \mathbf{x} = \begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{bmatrix} $$
これらの線形システムの解を順に$\mathbf{x}_{1}, \mathbf{x}_{2}, \dots, \mathbf{x}_{n}$とする。そして、これらの解を列ベクトルとして持つ行列を$C$とする。
$$ C = \begin{bmatrix} \mathbf{x}_{1} & \mathbf{x}_{2} & \cdots & \mathbf{x}_{n} \end{bmatrix} $$
$AC$を計算すると次のようになるので、$C$は$A$の逆行列である。したがって、$A$は可逆である。
$$ AC = A\begin{bmatrix} \mathbf{x}_{1} & \mathbf{x}_{2} & \cdots & \mathbf{x}_{n} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} A\mathbf{x}_{1} & A\mathbf{x}_{2} & \cdots & A\mathbf{x}_{n} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 1 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & 1 \end{bmatrix} = I_{n} $$
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Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Aplications Version (12th Edition, 2019), p64-65 ↩︎