コーシー分布:平均が存在しない分布
📂確率分布論コーシー分布:平均が存在しない分布
定義

以下の確率密度関数を持つ連続確率分布をコーシー分布と呼ぶ。
C
f(x)=π1x2+11,x∈R
説明
全ての確率分布に平均や分散があると思われがちだけど、実際にはそうではない。その代表例がコーシー分布で、一見正規分布に似ているが、両側の裾が厚い形状をしている。パラメータに関係なく、モーメント生成関数が存在しないので、平均であれ分散であれモーメントを含んだ全てのものは存在できない。
もちろん、母平均があろうと無かろうと、標本平均は計算できる。実際にx軸においてθだけ平行移動したコーシー分布では、θのmleθ^が標本平均として現れる。
一方、t-分布の確率密度関数は
g(y)=πnΓ(n/2)Γ((n+1)/2)(1+y2/n)(n+1)/21
であり、コーシー分布は自由度n=1のt-分布と見なすことができる。
定理
コーシー分布のモーメント生成関数は存在しない。
証明
コーシー分布の確率分布関数はf(x)=π1x2+11,−∞<x<∞で与えられる。モーメント生成関数E(etx)=∫−∞∞etxπ1x2+11dxが発散することを示すために、t>0のとき、平均値の定理により、
tx−0etx−e0=txetx−1=eξ≥e0=1
を満たす0<ξ<txが存在する。この式を少し整理すると、次の不等式を得る。
etx≥1+tx≥tx
再び積分に戻ると、
E(etx)≥≥≥==∫−∞∞etxπ1x2+11dx∫0∞etxπ1x2+11dx∫0∞π1x2+1txdx2πt[ln(x2+1)]0∞∞
したがって、コーシー分布のモーメント生成関数は存在しない。
■
コード
以下はコーシー分布、t-分布、コーシー分布の確率密度関数を示すJuliaのコードだ。
@time using LaTeXStrings
@time using Distributions
@time using Plots
cd(@__DIR__)
x = -4:0.1:4
plot(x, pdf.(Cauchy(), x),
color = :red,
label = "Cauchy", size = (400,300))
plot!(x, pdf.(TDist(3), x),
color = :orange,
label = "t(3)", size = (400,300))
plot!(x, pdf.(TDist(30), x),
color = :black, linestyle = :dash,
label = "t(30)", size = (400,300))
plot!(x, pdf.(Normal(), x),
color = :black,
label = "Standard Normal", size = (400,300))
xlims!(-4,5); ylims!(0,0.5); title!(L"\mathrm{pdf\,of\, t}(\nu)")
png("pdf")