ノルム空間とは何か
定義1
$X$をベクター空間としよう。次の三条件を満たす関数$\left\| \cdot \right\| : X \to \mathbb{R}$が存在すれば、$\left\| \cdot \right\|$を$X$のノルムと呼び、$(X,\left\| \cdot \right\| )$をノルム空間と呼ぶ。
(a) $\left\| x \right\| \ge 0,\quad \forall\ x \in X$かつ$\left\| x \right\|=0 \iff x = 0$
(b) $|cx|=|c|\left\| x \right\|,\quad \forall\ x\in X,\ \forall\ c \in\mathbb{C}$
(c) $\left\| x + y \right\| \le \left\| x \right\| + \left\| y \right\|,\quad \forall\ x,y\in X$
説明
ノルム空間$X$のノルムは以下のように表される。
$$ \left\| x \right\|_{X},\quad \left\| x, X \right\|, \quad \left\| x ; X \right\| $$
(a) $\left\| x \right\|=0 \iff x = 0$の条件がない場合は、セミノルムになる。
(b) は$\left\| x - y \right\| =|y -x|$が成立するという意味である。
(c) を三角不等式と呼び、以下の不等式を逆三角不等式と呼ぶ。ノルム空間$(X, \left\| \cdot \right\| )$と$x, y \in X$に対して、以下の不等式が成立する。
$$ \left| \left\| x \right\| - \left\| y \right\|\ \right| \le \left\| x- y \right\| $$
ノルム空間としての距離空間、位相空間
ノルムが与えられると、以下のように自然に距離を定義できる。したがって、ノルム空間は距離空間になる。
$$ d(x,y) = d_{X}(x,y) = \left\| x - y \right\|_{X} $$
距離が与えられると、以下のようにオープンボールを定義できる。
$$ B_{d}(x,r)=B_{r}(x):=\left\{ y\in X\ :\ \left\| x - y \right\|_{X} <r \right\} $$
全てのオープンボールの集合は$X$上の(位相数学での)基底になる。つまり、$X$のノルムで定義されたオープンボールによって$X$上の位相を作ることができるということである。このようにして作られた位相を$X$上のノルム位相2と呼ぶ。さらに、位相ベクター空間$X$の位相がノルム位相ならば、$X$をノルマブルと呼ぶ。
以上の内容をまとめると、$X$がノルム空間であるということは、$X$がベクター空間であり、距離空間であり、位相空間であるという意味を全て含んでいるということである。したがって、関数解析学では与えられたノルム空間を自然に距離空間、位相空間としても扱う。
証明3
三角不等式により、
$$ \left\| x \right\|= | (x-y) +y| \le |x-y| + \left\| y \right\| $$
が成立する。したがって、
$$ \begin{equation} \left\| x \right\| - \left\| y \right\| \le \left\| x- y \right\| \end{equation} $$
同様に、
$$ \left\| y \right\| = | (y - x) + x| \le \left\| y- x \right\| + \left\| x \right\| $$
なので、
$$ \begin{equation} \left\| y \right\| - \left\| x \right\| \le \left\| y- x \right\|=\left\| x - y \right\| \end{equation} $$
が成立する。したがって、$(1), (2)$により、
$$ \left| \ \left\| x \right\| -\left\| y \right\|\ \right| \le \left\| x- y \right\| $$
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