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ボルツマン分布 📂熱物理学

ボルツマン分布

定理1

温度がTTの系のエネルギーがε\varepsilonである確率は、以下の通りである。

P(ε)eεkBT P(\varepsilon) \propto e^{ - \frac{\varepsilon}{k_{B} T} }

この分布をボルツマン分布という。

導出

アンサンブルとは、簡単に言えば「系が作る状況」のことだ。

20180712\_144403.png

その中で、正準アンサンブルは、大きな熱貯蔵庫と非常に小さながある状況を指す。

熱貯蔵庫は、温度がTTで非常に大きな熱エネルギーEEを持つと仮定され、熱源とも呼ばれる。非常に大きいと仮定されるので、系に多くのエネルギーを与え、その後も同じ温度を維持できる。これは、海に行って紙コップで海水を一杯すくっても、全体の海水の量が実質的に変わらないのと同じだ。

系は、例えば「1つの分子」のような非常に小さな単位と考えることができる。系が持つことができるすべてのエネルギーに対して1つの微視的状態しかないと仮定される。したがってΩ=1\Omega=1である。この系がどのように具体的に与えられるべきかに関する条件がなければ、熱貯蔵庫の別の系に対しても同じ議論が進むことになる。したがって、「正準アンサンブルに対する探究」は、「与えられた系のすべての分子に対する探究」と直接結びつく。

20180712\_144411.png

上のように熱貯蔵庫と系が接触することで、系が非常に小さなエネルギーε\varepsilonを得たと考えよう。系は非常に小さいと仮定されているので、微視的な観点から見なければならず、エネルギーε\varepsilonはある分布に従うだろう。そして、与えられた系のエネルギーがε\varepsilonである確率は、貯蔵庫のエネルギーEEの微視的状態の数に比例する。つまりP(ε)Ω(E)P(\varepsilon) \propto \Omega (E)であり、Ω(E)=Ω(Eε)Ω(ε)\Omega (E) = \Omega (E - \varepsilon) \Omega ( \varepsilon)であるので次の式を得る。

P(ε)Ω(Eε)Ω(ε) P(\varepsilon) \propto \Omega (E - \varepsilon) \Omega ( \varepsilon)

系が非常に小さいと仮定されているので、Ω(ε)=1\Omega (\varepsilon ) = 1であり、上の式は以下の通りである。

P(ε)Ω(Eε) P(\varepsilon) \propto \Omega (E - \varepsilon )

テイラーの定理

関数f(x)f(x)[a,b][a,b]で連続であり、(a,b)(a,b)nn回微分可能であれば、x0(a,b)x_{0} \in (a,b)に対して

f(x)=k=0n1(xx0)kk!f(k)(x0)+(xx0)nn!f(n)(ξ) f(x) = \sum_{k=0}^{n-1} {{( x - x_{0} )^{k}\over{ k! }}{f^{(k)}( x_{0} )}} + {(x - x_{0} )^{n}\over{ n! }}{f^{(n)}(\xi)}

が存在する。

一方、系は非常に小さいと仮定されているので、εE\varepsilon \ll Eであり、EEの近傍でのlnΩ(Eε)\ln \Omega (E - \varepsilon )に対するテイラー展開は以下の通りである。

lnΩ(Eε)=10!lnΩ(E)+[(Eε)E]1!(lnΩ(E))+=lnΩ(E)dlnΩ(E)dEε+ \begin{align*} \ln \Omega (E - \varepsilon ) =& {{1} \over {0!}} \ln \Omega ( E ) + {{ \left[ ( E - \varepsilon) - E \right] } \over {1!}} \left( \ln \Omega (E) \right)^{\prime} + \cdots \\ =& \ln \Omega (E) - {{ d \ln \Omega (E) } \over { d E }} \varepsilon + \cdots \end{align*}

温度の定義

1kBT:=dln(Ω)dE \dfrac{1}{k_{B} T} : = \dfrac{d \ln (\Omega)}{dE }

そうすると、温度の定義に従って、以下のように整理できる。

lnΩ(Eε)=lnΩ(E)1kBTε+ \ln \Omega (E - \varepsilon ) = \ln \Omega (E) - {{ 1 } \over {k_{B} T}} \varepsilon + \cdots

ε\varepsilonは十分に小さいので、22次以上の項であるεn\varepsilon^{n}は、ほぼ00に等しいと考えられる。そうすると、以下の式を得る。

lnΩ(Eε)=lnΩ(E)εkBT=lnΩ(E)+lneεkBT=ln(Ω(E)eεkBT) \begin{align*} \ln \Omega (E - \varepsilon ) =& \ln \Omega (E) - \dfrac{\varepsilon}{ k_{B} T} \\ =& \ln \Omega (E) + \ln e^{-\frac{\varepsilon}{k_{B}T}} \\ =& \ln \left( \Omega (E) e^{-\frac{\varepsilon}{k_{B}T}} \right) \end{align*}

ログを解くと、以下を得る。

Ω(Eε)=Ω(E)eεkBT \Omega (E - \varepsilon ) = \Omega ( E) e^{ - {{\varepsilon } \over {k_{B} T}} }

したがって、P(ε)eεkBTP(\varepsilon) \propto e^{ - {{\varepsilon } \over {k_{B} T}} }であり、このような分布をボルツマン分布と言う。正準アンサンブルから導かれたという意味で、正準分布とも呼ばれる。


  1. Stephen J. Blundell and Katherine M. Blundell, 熱物理学の概念(Concepts in Thermal Physics, 訳:イ・ジェウ) (第2版、2014)、p50-53 ↩︎