内積空間、ノルム空間、距離空間の関係
📂ヒルベルト空間内積空間、ノルム空間、距離空間の関係
説明
内積空間 (X,⟨⋅,⋅⟩)が与えられているとする。そうすると、下記のように内積から自然にノルムを定義できる。
∥x∥:=⟨x,x⟩,x∈X
したがって、内積空間ならばノルム空間だ。続いてこのように定義されたノルムから距離を定義できる。
d(x,y):=∥x−y∥=⟨x−y,x−y⟩,x,y∈X
したがって、内積空間ならばノルム空間であり、距離空間でもある。教科書の中には距離空間が与えられているといいながらノルムや内積の概念を使用するものがあるが、まさにこのためだ。距離空間と言っても実際には内積空間が与えられているとみなすわけだ。
逆に、「内積空間 Xが与えられている」という言葉は、「距離空間 Xが与えられている」「ノルム空間 Xが与えられている」と同じ意味だ。また、完備性は距離空間で定義される概念だが、内積やノルムから距離を定義できるため、ノルム空間や内積空間が完備であると言える理由はこれだ。証明は定義を使えば難しくないので、(1)についてだけ紹介する。
定理
内積空間ならばノルム空間だ。
証明
内積空間 Xが与えられているとする。そして、x,y∈Xであり、c∈Cとする。すると内積の定義により、
∥x∥≥0
が成り立つ。また、内積の定義により、
∥x∥=0⟺x=0
が成り立つ。同様に内積の定義により、
∥cx∥==== ⟨cx,cx⟩ ∣c∣2⟨x,x⟩ ∣c∣⟨x,x⟩ ∣c∣∥x∥
が成り立つ。最後の条件も内積の定義により、
∥x+y∥2====≤≤== ⟨x+y,x+y⟩ ⟨x,x+y⟩+⟨y,x+y⟩ ⟨x,x⟩+⟨x,y⟩+⟨y,x⟩+⟨y,y⟩ ∥x∥2+⟨x,y⟩+⟨x,y⟩+∥y∥2∥x∥2+2∣⟨x,y⟩∣+∥y∥2∥x∥2+2⟨x,x⟩1/2⟨y,y⟩1/2+∥y∥2 ∥x∥2+2∥x∥∥y∥+∥y∥2 (∥x∥+∥y∥)2
任意の複素数 c∈Cに対して、c+c∈Rであるため、第五行は成立する。第六行はコーシー・シュワルツの不等式によって成り立つ。したがって、
∥x∥:=⟨x,x⟩
として定義された ∥⋅∥は、ノルムの定義を満たす。
■