極大イデアル
定義 1
環 $R$ のイデアル $M \ne R$ が$R$ の他のどのイデアル $N \ne R$ にも含まれない時、そのイデアルを$R$ の極大イデアルmaximal Idealという。つまり、$M \subsetneq R$ が極大イデアルであるとは、以下の通りである。 $$ \nexists N : M \subsetneq N \subsetneq R $$
説明
代数学で言う「マキシマル」は、集合論でのマキシマルとほぼ同じである。
もちろん、この定義だけでは一意性を保証できない。例えば、整数環 $\mathbb{Z}$ において、$2 \mathbb{Z}$、$3 \mathbb{Z}$ はどちらも$\mathbb{Z}$ の外に超イデアルが存在しないため、$\mathbb{Z}$ の極大イデアルとなる。同じ理論で、任意の素数 $p$ に対して、$p \mathbb{Z}$ も$\mathbb{Z}$ の極大イデアルとなる。
一方で、極大イデアルは体に関して以下の性質を持っている。これは素イデアルと整域の関係に似ている。
定理
可換環 $R$ が単位元 $1_{R}$ を持つとする。
- $M$ は $R$ の極大イデアル $\iff$ $R / M$ は体である
証明
$( \implies )$
$R / M$ は単位元 $( 1_{R} + M )$ を持つ可換環である。単位元でない $a \ne 1_{R}$ に対して、$( a + M ) \in R / M$ とすると、全ての $r \in R$ に対して $a r \in R$ であり、$M$ が $R$ のイデアルであるため、$M + a R = R$ である。すなわち $$ 1_{R} = m + ar $$ を満たす $m \in M$, $r \in R$ の存在を意味し、これは $R / M$ において $$ 1_{R} + M = ar + M $$ である。別々に考えれば $$ 1_{R} + M = (a + M)(r + M) $$ であり、全ての $(a + M)$ には逆元 $(a + M)^{-1} = (r + M)$ が存在する。従って、$R / M$ は体となる。
$( \impliedby )$
$M$ が極大でなくなるような、つまり$M \subsetneq N \subsetneq R$ を満たすイデアル $N \triangleleft R$ の存在を仮定する。
すると$M$ には属さないが$N$ には属する何らかの元 $n \in N$ も存在するはずである。$R / M$ を体としたので、 $$ (n + M) (s + M ) = ns + M = 1_{R} + M $$ を満たす $s \in R$ の存在が必要である。ここで $n ' := ( 1 - ns ) \in M \subsetneq N$ とすると、 $$ 1_{R} = ( n' + ns ) \in N $$ である。しかし、イデアル $N$ は単位元 $1_{R}$ を持つため、$N = R$ となり、仮定に矛盾する。
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Fraleigh. (2003). A first course in abstract algebra(7th Edition): p247. ↩︎