微分可能多様体上のベクトル場
ビルドアップ1
ベクトル場の簡単な定義を考えてみよう。3次元空間でのベクトル場ベクトル関数、ベクトル場とは、3次元ベクトルを3次元ベクトルにマッピングする関数 $X : \mathbb{R}^{3} \to \mathbb{R}^{3}$である。これを多様体と考えると、$X$は微分多様体 $\mathbb{R}^{3}$の点 $p$を$\mathbb{R}^{3}$のベクトル $\mathbf{v}$にマッピングするが、このベクトル $\mathbf{v}$をオペレーターとして扱い、方向微分(=接ベクトル)と考えることができる。したがって、ベクトル場とは、多様体 $\mathbb{R}^{3}$の点 $p$を$p$の接ベクトル $\mathbf{v}_{p} \in T_{p}\mathbb{R}^{3}$にマッピングする関数である。
すると、ベクトル場の値域は全ての点の接ベクトルの集合である。したがって、ベクトル場 $X$は以下のように定義される関数である。
$$ X : \mathbb{R}^{3} \to \bigcup \limits_{p\in \mathbb{R}^{3}} T_{p}\mathbb{R}^{3} $$
この概念を多様体に一般化するために、微分多様体 $M$の接束tangent bundle $TM$を次のように定義しよう。
$$ TM := \bigsqcup \limits_{p\in M} T_{p}M $$
このとき $\bigsqcup$は直和である。
定義
微分多様体 $M$上のベクトル場vector field $X$とは、各点 $p \in M$を$p$の接ベクトル $X_{p} \in T_{p}M$にマッピングする関数である。
$$ \begin{align*} X : M &\to TM \\ p &\mapsto X_{p} \end{align*} $$
説明
ベクトル場の関数値
接束の定義を考えると、$TM$の要素は$(p, X_{p})$であるが、定義で$X_{p}$をマッピングすると書かれているので、疑問に思うことがあるかもしれない。
$$ \begin{equation} TM := \bigsqcup \limits_{p \in M } T_{p}M = \bigcup_{p \in M} \left\{ p \right\} \times T_{p}M = \left\{ (p, X_{p}) : p \in M, X_{p} \in T_{p}M \right\} \end{equation} $$
つまり、正確に言うと、直和の定義によると$TM$の要素は順序対 $(p, X_{p})$が正しいが、実際には$X_{p}$と同じものとして扱われる。
接束の定義を再考する。接束の定義で本当にしたいのは、順序対 $(p, X_{p})$を集めることではない。各点 $p$上の接ベクトルをすべて集めたいのである。しかし、各$T_{p}M$は$\mathbb{R}^{n}$と同型であるため、和集合をとるときに曖昧さが生じる可能性がある。
$$ T_{p}M \approxeq \mathbb{R}^{n} \approxeq T_{q}M $$
例えば、$M$が3次元多様体であるとすると、$T_{p}M \approxeq \mathbb{R}^{3}$で表されるベクトル $X_{p}$と$T_{q}M \approxeq \mathbb{R}^{3}$で表されるベクトル $X_{q}$を同じものとして扱う曖昧さがある。したがって、$TM$を順序対の集合として定義する理由は、$X_{p}$と$X_{q}$が同じ対象ではなく、明確に異なるものとして区別するためである。ここで自然に$\iota_{p} : (p, X_{p}) \mapsto X_{p}$のような全単射関数を考え、$(p, X_{p}) \approx X_{p}$として扱うことができる。
ある教科書では、このような説明を特にしたくない場合や、読者が十分に理解していると仮定する場合に、接束 $TM$を次のように定義することもある。
$$ TM := \bigcup\limits_{p\in M} T_{p}M = \left\{ X_{p} \in T_{p}M : \forall p \in M \right\} $$
もちろん、再度言うが、上の定義も$(1)$も本質的には同じである。また、上の定義によると$X$の関数値は関数 $X_{p}$であることに注意しよう。
$$ X_{p} : \mathcal{D} \to \mathbb{R} $$
オペレーターとしてのベクトル場
$M$を$n$次元微分多様体としよう。$M$の微分可能な関数の集合を$\mathcal{D} = \mathcal{D}(M)$としよう。
$$ \mathcal{D} = \mathcal{D}(M) := \left\{ \text{all real-valued functions of class } C^{\infty} \text{ defined on } M \right\} $$
参照
Manfredo P. Do Carmo, Riemannian Geometry (英語版, 1992), p25-27 ↩︎