微分可能な多様体
定義1
を任意の集合、を開集合とする。一対一関数に対して次の条件を満たす順序対または簡単にを次元の微分可能な多様体differentiable manifold of dimension と定義する。
- に対して、写像が微分可能である。
- 条件1と2を満たす可能なすべてのに対してインデックスファミリーを構成する。
説明
簡単に微分多様体または滑らかな多様体smooth manifoldとも呼ぶ。次元の微分多様体をで表記することもある。
のとき、または簡単にをでのの座標系system of coordinates of at 、局所座標系またはパラメータ化parameterizationと呼ぶ。
をでの座標近傍coordinate neighborhoodという。
条件3.のインデックスファミリーを上の微分可能な構造differentiable structure on
に対して、を満たすを座標関数coordinate functionと呼ぶ。
1番. は完全に任意の集合で与えられるため(つまり一般的に距離空間ではないため)が微分可能か否かについて議論することはできない。また、は複数のイメージの併合集合であるため、それぞれの交わりで適当に良好な条件が必要であり、ここではそれを微分可能という条件で与えたものである。
一方で写像の条件によって多様体が様々な名前で呼ばれることになる。例えば微分の代わりに連続という条件が与えられるとは位相多様体topological manifoldとなる。正則という条件が与えられるとは複素多様体complex manifoldとなる。また、の場合、は多様体と呼ばれる。微分幾何学では微分という道具で幾何学を説明したいので、微分可能な多様体を扱うことになる。
3番. この内容は技術的な部分であり、二つの微分可能な構造が同じか異なるかなどの話を避けるために存在する条件である。1と2を満たすそのようなものをすべて集めるとしているので、「これなんかはどう?」とか「これも入ってる?」というつっこみをしないでという意味で考えるといいだろう。
例
ユークリッド空間
多様体は局所的にユークリッド空間に似た空間として説明されることもあるので、が微分可能な多様体であることは当然といえば当然の事実である。を恒等作用素とする。
微分可能な構造をのようにすると成立する。
恒等作用素は微分可能であるため成立する。
これらのすべての順序対に対してインデックスファミリーを構成する。
するとは微分可能な多様体である。
自然にユークリッド空間の任意の開部分集合はを微分可能な構造として持つため、微分多様体となる。したがって、ある集合が微分多様体であることを示すためには、その集合がユークリッド空間の開部分集合であることを示せばよい。
2次元球面
座標片 | 定義 | 逆 |
---|---|---|
が成立する。
は次のようであるため微分可能である。
- この方法で1と2を満たす可能なすべての順序対を集めてインデックスファミリーを構成する。
すると、は微分可能な多様体である。
Manfredo P. Do Carmo, Riemannian Geometry (Eng Edition, 1992), p2-3 ↩︎