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物理学(量子力学)における演算子とは 📂量子力学

物理学(量子力学)における演算子とは

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数学で 関数functionというのは、ある集合 $X$ の各要素に別の集合 $Y$ の要素を一つだけ対応させる関係を指し、functionの頭文字を取ってよく $f$ と表記される。集合 $X$ の $x$ という要素を集合 $Y$ の $y$ という要素に対応させる関数を $f$ とすると、次のように表記する。

$$ y = f(x) $$

もしその関係が $x$ に対して具体的に与えられているなら、次の例のように表現することができる。

$$ y = 3x^{3} -2 x^{2} + x + 1 \quad \text{and} \quad y = e^{3x} \quad \text{and} \quad y = 5 \cos x $$

多くの理工系の学生は、関数というのを上記のようにある数 $x$ とある数 $y$ の関係だと思っているだろう。実際に接するほとんどの関数がそうであるからだ。しかし、上記の定義を見れば分かるように、関数が必ずしも数字と数字だけを結ぶ必要はない。つまり、集合 $X$ と $Y$ が数字で構成されているとは限らないということだ。例えば、ある関数と数字を結びつける関数を考えることができ、これは古典力学でハミルトンの原理を学ぶときに作用という概念で出会うことができる。

汎関数の定義

ある 関数関数を代入して、その結果 ある数字が出るとき、その 関数汎関数functionalという。例えば、次のように定義された関数 $F$ は汎関数である。

$$ {\color{blue}F\big( {\color{orange}f(x)} \big)} := {\color{red} \int_{1}^{2} f(x) dx} $$

つまり、関数 $F$ はある関数を $1$ から $2$ まで定積分した値を関数値として持つ。実際に計算してみると

$$ {\color{blue}F( {\color{orange} e^{x} })} = \int_{1}^2 e^x dx = {\color{red}e^2-e},\quad {\color{blue}F({\color{orange}x^2})}=\int_{1}^2 x^{2} dx = {\color{red}\frac{7}{3} } $$

では、もう少し進んで、集合 $X$ と $Y$ を関数の集合にしてみよう。これの場合にも、集合 $X$ を $Y$ に対応させる関数を考えることができる。このような関数の具体的な例として微分がある。関数 $f$ を 微分 としよう。すると、$f$ は二次多項式 $x^{2} + 3x + 1$ を一次多項式 $2x + 3$ に対応させる関数になる。

$$ f\left( x^{2} + 3x + 1 \right) = 2x + 3 $$

このような $f$ をよく 微分演算子 と呼び、$D = \dfrac{d}{dx}$ のように表記する。次に、関数 $g$ を 不定積分 としよう。すると、$g$ は $\cos x$ を $\sin x$ に対応させる関数になる(積分定数は省略する)。

$$ g(\cos x) = \sin x $$

しかし,「関数を関数に対応させる関数」という表現は、関数という言葉が繰り返し出てくるため混乱しやすく、良い表現ではない。したがって、量子力学ではこのような関数を次のような特別な名前で呼ぶ。

定義

量子力学では、(波動)関数を(波動)関数に対応させる関数を特に 演算子operator と呼ぶ。

説明

演算子は数学の 関数解析学という分野で登場し、この分野では 作用素という名前で訳される。この定義は演算子の厳密な定義ではないが、専門数学を学んでいない物理学科の学生にはこのくらいでも十分だ。

デル演算子を演算子と呼ぶ理由もこの定義に関連している。例えば、勾配 $\nabla$ はスカラー関数 $f$ をベクトル関数 $\left( \dfrac{\partial f}{\partial x}, \dfrac{\partial f}{\partial y}, \dfrac{\partial f}{\partial z} \right)$ に対応させる演算子である。寿司屋で、デル演算子をベクトルと考えないように強調する理由はこれだ。

量子力学では、古典的物理量との区別をつけるために、演算子にはハット記号 ($\ \hat{}\ $) を付けたり、大文字で表記する。例えば、運動量演算子は $\hat{p}$ または $P$ のように表記される。混乱の余地がない場合にはそのまま $p$ のように表記することもある。演算子の種類には次のようなものがある。

量子力学で波動関数とは、時間と位置に応じて粒子の運動状態を説明する関数だ。ある粒子の波動関数が$\psi = \psi (x,t) = A e ^{i(kx+\omega t) }$としよう。運動量演算子は運動量 $p$ との混同を避けるために$P$または$P$と表記される。この演算子は波動関数 $\psi$ が与えられたとき、波動関数とその粒子の運動量 $p$ を掛けた関数に対応させる演算子だ。これを数式で表現すると次のようになる。

$$ P (\psi) = P \psi = p \psi $$

この時、上のように括弧を省略して書くのが一般的だ。これは、演算子 $P$に波動関数 $\psi$ を代入することを二つの行列の積と同じように扱うことができるからだ。上の式を行列の積と見なせば、上の式は 固有値方程式 になり、波動関数 $\psi$ と運動量 $p$ は運動量演算子 $P$ の 固有関数固有値 になる。運動量演算子は具体的に 次の通りだ。

$$ P = \dfrac{\hbar}{\i}\dfrac{\partial}{\partial x} $$

上記の演算子に波動関数 $\psi$ を代入すると、運動量 $p=\hbar k$ を得ることを次のように確認できる。

$$ P(\psi) = P\psi = \frac{\hbar}{\i}\frac{\partial }{\partial x} \left( \psi \right) = \frac{\hbar}{\i}\frac{\partial \psi}{\partial x} = (\i k)\frac{\hbar}{\i}\psi = p \psi $$

物理的解釈

上述したように、演算子は数学的に見れば単純に関数(または行列)に過ぎないが、量子力学ではこれを 物理量の観測 として解釈する。したがって、以下のような 固有値方程式 は波動関数(固有関数) $\psi$ についてある物理量を $\hat{Q}$ として測定したとき、その値が $q$ であると解釈される。

$$ \hat{Q}\psi = q\psi $$

つまり、簡単に言えば $\hat{Q}$ は体重計に乗る行為、$\psi$ は自分(人)、$q$ は測定された体重と言える。