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デルタ関数の歴史とディラックがデルタ関数を使用した理由 📂関数

デルタ関数の歴史とディラックがデルタ関数を使用した理由

デルタ関数の歴史1 2 3

デルタ関数は19世紀初頭、ポアッソン(1815)、フーリエ(1822)、コーシー(1823, 1827)といった数学や物理学において大きな業績を残した学者たちの作品から現れ始めた。ただし、この時期には現在のように数学的に厳密にデルタ関数を定義することには焦点を当てていなかった。後にキルヒホフ(1882, 1891)とヘヴィサイド(1893, 1899)が初めてデルタ関数の数学的定義を提案した。もちろん、現代の視点から見ればこれも数学的に厳密なものではなかった。

ヘヴィサイドはデルタ関数を単位ステップ関数の導関数として説明した。以降、デルタ関数はラプラス変換と関連して、特に電気工学で自由に使用されるようになった。そこからポール・ディラック(1927)が量子力学の理論に関する作品でデルタ関数を紹介し、それ以降広く使用されるようになり有名になった。この歴史的背景から、デルタ関数はディラックのデルタ関数と呼ばれるようになった。もちろん、この時点でデルタ関数に対して数学的に厳密な定義を行った人はいなかった。

これを成し遂げたのはフランスの数学者、シュヴァルツだ。シュヴァルツは1935年にデルタ関数に初めて触れた後、1950年に『Theorie des Distribution』という本を通じてデルタ関数を数学的に厳密に説明した。関数空間のfunctionalとしてデルタ関数のようなものを定義し、文字通り「大雑把に」使われていたデルタ関数に正当性を与えたのだ。

ディラックがデルタ関数を必要とした理由

結論から言えば、ディラックには連続的な変数に対してクロネッカーデルタと同様の役割を果たす何かが必要で、それがデルタ関数だった。これがディラックがデルタ関数の記号としてδ\deltaを選んだ理由であると思われる。

ある数列{a1,a2,a3,}\left\{ a_{1}, a_{2}, a_{3}, \cdots \right\}が与えられたとしよう。特定の成分aia_{i}をどのように選び出せるだろうか?「特定の成分との積でのみ00でない何か」を全ての成分に掛けて足し合わせれば、特定のaia_{i}を選び出せるだろう。これを以下のように定義し、クロネッカーデルタと呼ぶ。

δij={1,i=j0,ij \begin{equation} \delta_{ij}=\begin{cases} 1,&i=j \\ 0,& i\ne j\end{cases} \end{equation}

するとaia_{i}は以下のように表現できる。

ai=j=1δijaj \begin{equation} a_{i}=\sum \limits_{j=1}\delta_{ij}a_{j} \end{equation}

また、クロネッカーデルタについて以下の式が成立することがわかる。

j=1δij=1 \begin{equation} \sum \limits_{j=1}\delta_{ij}=1 \end{equation}

さて、量子力学に移ろう。波動関数ϕL2(R)\phi \in L^2(\mathbb{R})が与えられたとする。ϕ\phinn個の状態で表されるなら、各状態の振幅はクロネッカーデルタを使用して以下のように表せる。

ϕ=a1ϕ1+a2ϕ2++anϕn=j=1najϕj    ai=ϕiϕ=j=1najϕiϕj=j=1najδij(4) \begin{align*} && | \phi \rangle &= a_{1}|\phi_{1}\rangle +a_{2}|\phi_{2}\rangle+\cdots+a_{n}|\phi_{n}\rangle=\sum \limits _{j=1} ^{n}a_{j}|\phi_{j}\rangle \\ \implies && a_{i} &= \langle\phi_{i} | \phi \rangle=\sum_{j=1}^{n}a_{j}\langle \phi_{i}|\phi_{j}\rangle =\sum \limits _{j=1} ^{n}a_{j}\delta_{ij} \end{align*} \tag{4}

しかし、観測可能な物理量4はこのように離散的に分かれていないかもしれない。位置を考えると、私たちは1メートルごとの間隔で立つわけではなく、どこにでも立つことができる。従って、位置演算子の固有関数x|x\rangle非可算になり得る。それゆえ、クロネッカーデルタと\sumでは表せず、積分で表現しなければならない。各位置の振幅をf(x)f(x)とすると

ϕ=f(x)ϕdx | \phi \rangle = \int f(x) |\phi \rangle dx

位置x0x_{0}の固有関数x0|x_{0}\rangleの振幅f(x0)f(x_{0})を求めるには

f(x0)=x0ϕ=f(x)x0xdx f(x_{0})=\langle x_{0} |\phi \rangle = \int f(x) \langle x_{0}|x \rangle dx

今やるべきことは、右側の積分がf(x0)f(x_{0})となるようにすることだ。これはx0x\langle x_{0} | x\rangleを以下の特性を持つ何らかの関数δ\deltaとするならば解決される。

δ(xx0)=0,xx0f(x0)=f(x)δ(xx0)dxδ(xx0)dx=1 \begin{equation} \begin{aligned} \delta (x-x_{0})=0,\quad x\ne x_{0} \\ f(x_{0}) = \int f(x)\delta (x-x_{0})dx \\ \int \delta (x-x_{0})dx =1 \end{aligned} \end{equation}

(5)(5)(1)(1)(2)(2)(3)(3)を比較すると、ディラックのデルタ関数は連続変数に対するクロネッカーデルタの拡張と見ることができる。ディラックは自分の本5で、(5)(5)の中間式を「f(x)f(x)x0x_{0}を代入することと、f(x)f(x)δ(xx0)\delta (x-x_{0})を掛けて全領域に渡って積分することは同じである」と説明している。また、数学的に厳密な関数ではなく、そのため結果に矛盾が生じないように簡単な表現でのみ使用すべきだと述べている。


  1. http://physics.unipune.ac.in/~phyed/27.1/1191%20revised(27.1).pdf ↩︎

  2. https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/BF02866759.pdf ↩︎

  3. https://horizon.kias.re.kr/11905/ ↩︎

  4. 수학으로 말하자면 고유값에 해당한다. ↩︎

  5. P.A.M ディラック. (1927). 量子力学原理(第4版): p58. ↩︎