算術関数の乗法的性質
📂整数論算術関数の乗法的性質
定義
- ∀n∈Nについて、f(n)=0でない算術関数fが次を満たす場合、乗法的関数という。
f(mn)=f(m)f(n),gcd(m,n)=1
- 乗法的関数が次の条件を満たす場合、完全乗法的関数という。
f(mn)=f(m)f(n),m,n∈N
基本性質
- [1]: fが乗法的なら、f(1)=1である。
- [2]: fが乗法的関数であることと、全ての素数p1,⋯,prと全てのa1,⋯,ar∈Nに対してf(p1a1⋯prar)=f(p1a1)⋯f(prar)であることは同値である。
- [3]: fが乗法的なら、p∣nを満たす素数pについて
d∣n∑μ(d)f(d)=p∣n∏(1−f(p))
- [4]: fが乗法的なら、fが完全乗法的関数であることと、全ての素数pと全てのa∈Nに対してf(pa)=[f(p)]aであることは同値である。
- [5]: fが乗法的なら、fが完全乗法的関数であることと、 fのディリクレ積に対する逆数f−1が次のように表されることは同値である。
f−1(n)=μ(n)f(n)
- [6]: fが完全乗法的であれば、F(n):=∑d∣nf(d)も乗法的である。
説明
当然ながら、完全乗法的であれば乗法的である。
算術関数が乗法的であるということは、数学全般で言われる「独立」に似た条件を満たすもので、関数値を細かく考えることができるため、自然に豊かな数学的性質を持つことになる。
定理[1]はとても簡単に導出されるが、メビウス関数の集合が群になるための重要な条件となるf(1)=0を含意する。
証明
[1]
f(1)=f(1⋅1)=f(1)f(1)であるから、f(1)=1でなければならない。
■
[2]
(⇒)
fが乗法的であり、異なる素数p=qに対して常にgcd(pa,qb)=1であるから
f(p1a1⋯prar)===f(p1a1)f(p2a2⋯prar)f(p1a1)f(p2a2)f(p3a3⋯prar)f(p1a1)⋯f(prar)
(⇐)
m=p1a1⋯prar、n=q1b1⋯qsbsそしてgcd(m,n)=1とすると
f(mn)====f(p1a1⋯prarq1b1⋯qsbs)f(p1a1)⋯f(prar)f(q1b1)⋯f(qsbs)f(p1a1⋯prar)f(q1b1⋯qsbs)f(m)f(n)
■
[3]
戦略:メビウス関数の性質を使わなければならない。
メビウス関数の定義:素数p1,⋯,pkに対して自然数nがn=p1a1⋯pkakと表されるとする。次のように定義された算術関数μをメビウス関数という。
μ(n):=⎩⎨⎧1(−1)k0,n=1,a1=⋯=ak=1,otherwise
乗法性:gcd(m,n)=1を満たす全てのm,n∈Nに対してμ(mn)=μ(m)μ(n)
g(n):=d∣n∑μ(d)f(d)
そして、mがg(m,n)=1を満たすとする。すると、a∣mとb∣nを満たすd=abについてはgcd(a,b)=1も成り立つため、シグマを別々に考えることができる。また、μが乗法的であり、前提でfも乗法的であるため、
g(mn)=====ab∣mn∑μ(ab)f(ab)a∣mb∣n∑μ(ab)f(ab)a∣mb∣n∑μ(a)μ(b)f(a)f(b)a∣m∑μ(a)f(a)b∣n∑μ(b)f(b)g(m)g(n)
したがって、gも乗法的である。そうすると定理[2]により、g(p1a1⋯prar)=g(p1a1)⋯g(prar)であるため、固定された素数pについてg(pa)の計算だけで良い。定理[1]により、f(1)=1そしてμ(1)=1であり、μ(p)=−1、そしてそれ以上の次数k≥2に対しては全てμ(pk)=0であるから
g(pa)====d∣pa∑μ(d)f(d)μ(1)f(1)+μ(p)f(p)1⋅1−1⋅f(p)1−f(p)
自然数n=p1a1⋯prarに対してまとめると
g(n)=p∣n∏g(pa)=p∣n∏(1−f(p))
■
[4]
(⇒)
fは完全乗法的であるから、
f(pa)=f(p)(pa−1)=[f(p)]2(pa−2)=⋯=[f(p)]a
(⇐)
素数p1,⋯,psと整数a1,⋯,as,b1,⋯,bs∈N0そして自然数c1,⋯,ct∈Nに対して任意のmとnが次のように表されるとしよう。
m=p1a1⋯ptatn=p1b1⋯ptbtmn=p1c1⋯ptct
mとnが素数piを約数として持たない場合、それぞれai=0、bi=0である。fは乗法的であるから、
f(mn)========f(p1c1⋯ptct)f(p1c1)⋯f(ptct)[f(p1)]c1⋯[f(pt)]ct[f(p1)]a1[f(p1)]b1⋯[f(pt)]at[f(pt)]bt[f(p1)]a1⋯[f(pt)]at[f(p1)]b1⋯[f(pt)]bt[f(p1a1)]⋯[f(ptat)][f(p1b1)]⋯[f(ptbt)]f(p1a1⋯ptat)f(p1b1⋯ptbt)f(m)f(n)
■
[5]
(⇒)
g(n):=μ(n)f(n)としよう。
fは完全乗法的であり、d∣n∑μ(d)=I(n)であるから、
$$
\begin{align*}
(gf)(n) =& \sum_{d \mid n} \mu (d) f (d) f \left( {{ n } \over { d }} \right)
\\ =& f(n) \sum_{d \mid n} \mu (d)
\\ =& f(n) I(n)
\end{align}
$$
定理[1]で、$f(1) = 1$であり、アイデンティティ関数Iはn>1でI(n)=0であるから、f(n)I(n)=I(n)である。まとめると、(g∗ f)(n)=I(n)であるから、g=f−1である。
(⇐)
任意の素数pと自然数a∈Nに対してn=paとしよう。
f−1(n):=μ(n)f(n)なら
d∣n∑μ(d)f(d)f(dn)====d∣n∑f−1(d)f(dn)(f−1∗ f)(n)I(n)0
メビウス関数の定義:素数p1,⋯,pkに対して自然数nがn=p1a1⋯pkakと表されるとする。次のように定義された算術関数μをメビウス関数という。
μ(n):=⎩⎨⎧1(−1)k0,n=1,a1=⋯=ak=1,otherwise
メビウス関数の定義に従って、k≥2ならμ(pk)=0であるから、
μ(1)f(1)f(pa)+μ(p)f(p)f(pa−1)+0+⋯+0=0
前提でfは乗法的関数であったので、定理[1]によりf(1)=1である。一方、メビウス関数はμ(1)=1であり、μ(p)=−1であるから、
1⋅1⋅f(pa)+(−1)⋅f(p)f(pa−1)=0
まとめると、
f(pa)=f(p)f(pa−1)
再帰的に解くとf(pa)=f(p)aであるので、**定理[4]**により、fは完全乗法的である。
■
[6]
gcd(m,n)=1と仮定すると、mの約数とnの約数を区別できる。便宜上、a1,⋯,aMがmの約数、b1,⋯,bNがnの約数だとしよう。
F(mn)====d∣mn∑f(d)f(1)+f(a1)+⋯+f(aM)+f(b1)+⋯+f(bN)+f(a1bN)+⋯+f(aMb1)+⋯+f(a1a2bN)+⋯+f(mn)a∣m∑f(a)b∣n∑f(b)F(m)F(n)
■