ガウス素数定理の証明
定理 1
ガウス整数 の 既約元 をガウス素数と呼ぶ。ガウス整数 $\pi \in \mathbb{Z}[i]$ が次の条件のどれか一つを満たす場合、ガウス素数である。
- (i): $\pi = 1 + i$
- (ii): 素数 $p \in \mathbb{Z}$ に対して $p \equiv 3 \pmod{4}$ を満たす $\pi = p$
- (iii): 素数 $p \in \mathbb{Z}$ に対して $p \equiv 1 \pmod{4}$ とするとき、$p = u^2 + v^2$ を満たす $\pi = u + iv$
- (iv): 上記の (i)~(iii) に該当する $\pi$ に $\mathbb{Z}[i]$ の単位 $1,-1,i,-i$ を乗じて得られる $ i^{k} \pi$
- (iv): 上記の (i)~(iii) に該当する $\pi$ に共役を取って得られる $\overline{\pi}$
説明
ガウス整数を話すとき、$\pi$ は通常、円周率ではなくガウス素数を表す。通常の整数の素数を 自然素数natural Prime $p$ とよく称するため、混乱を避ける目的がある。このような素数の拡張は、ガウス整数の研究を整数論らしくする。
(i)
$(1 + i)$ は、従来の $2 = 1 - (i)^2 = (1 + i)(1-i)$ を代替する数であり、これより「小さい」感じのガウス素数は存在しない。
(ii)
例えば、$7$ はガウス整数を使っても素因数分解できない。本当に無理なのか確かめることは意味がないので、証明から見ることをお勧めする。
(iii), (iv), (v)
例として、$5$ は $5 = (2 + i)(2 - i) = (1 + i2)(1 - i2)$ なので素因数分解が可能である。ここで $\mathbb{Z}[i]$ がUFDであるにも関わらず、二種類の素因数分解があると考えるのは問題があるが、$2+i = i(1 - 2i)$ のように単位の積として表されるからである。一方、$(2+i)$ と $(2-i)$、$(1 + i2)$ と $1 - i2$ がそれぞれ共役を成してガウス素数であることが確認できる。
証明
戦略: $(Z[i] , N)$ は、ノルムが $N(x+iy) = x^2 + y^2$ のように定義されるガウス環である。(ただし、$x, y \in \mathbb{Z}$)ガウス素数定理の証明自体は、その代数的性質を基に初等整数論の様々な結果と組み合わせたものにすぎないが、これらの性質と結果を理解することが難しい。
パート0. $| N( \pi ) | = p$ が素数なら、$\pi$ はガウス素数である。
乗法的ノルムの性質:$ p \in \mathbb{Z}$ が 素数 だとしよう。
- [1]: 乗法的ノルム $N$ が $N(1) = 1$ と定義されるなら、全ての単位 $u \in D$ に対して $| N ( u ) | = 1$
- [2]: $| N ( \alpha )| =1$ を満たす全ての $\alpha \in D$ が $D$ で単位なら、$| N ( \pi ) | = p$ を満たす $\pi \in D$ は $D$ で既約元である。
- [3]: $\mathbb{Z}[i]$ の単位は $1,-1,i,-i$ だけである。
[3]によって $\mathbb{Z}[i]$ の単位は $1,-1,i,-i$ だけであり、[1]によって $$ N(1) = N(-1) = N(i) = N(-i) = 1 $$ である。$| N ( \alpha )| =1$ を満たす全ての $\alpha$ が $\mathbb{Z}[i]$ で単位だったので、[2]によって $| N( \pi ) | = p$ を満たす $\pi$ は $\mathbb{Z}[i]$ の既約元となる。つまり、$| N( \pi ) | = p$ が素数なら、$\pi$ はガウス素数である。
パート (i). $\pi = 1 + i$
$\pi = 1 + i$ であれば$N(\pi) = 1^2 + 1^2 = 2$は素数なので、パート0によって $\pi = 1 + i$ はガウス素数である。
パート (ii). $\pi \equiv 3 \pmod{4}$
$\pi = p$ が$p \equiv 3 \pmod{4}$ を満たす素数だが $\mathbb{Z}[i]$ のガウス素数ではないとして、$\pi = ( a + ib )( c + id )$ のような素因数分解が存在すると仮定してみよう。$N$ の乗法的性質に従って $$ \begin{align*} p^2 =& \pi^2 + 0^2 \\ =& N ( \pi + i 0 ) \\ =& N ( a + ib ) N ( c + id ) \\ =& (a^2 + b^2) (c^2 + d^2) \end{align*} $$ 整理すると $p^2 = (a^2 + b^2) (c^2 + d^2)$ だが、$p \in \mathbb{Z}$ が素数なので $\begin{cases} a^2 + b^2 = p \\ c^2 + d^2 = p \end{cases}$ を満たす解が存在しなければならない。
素数が 4 で割った余りが 1 になる必要十分条件:$p \ne 2$ が 素数 だとしよう。 $p \equiv 1 \pmod{4}$ $\iff$ ある $a,b \in \mathbb{Z}$ に対して $p = a^2 + b^2$
しかし、$p \equiv 3 \pmod{4}$ ので、素数が 4 で割った余りが 1 になる必要十分条件によって、$\begin{cases} a^2 + b^2 = p \\ c^2 + d^2 = p \end{cases}$ を満たす解は存在しない。これは矛盾であり、したがって $\pi \equiv 3 \pmod{4}$ はガウス素数である。
パート (iii). $\pi = u + iv$
素数 $p \in \mathbb{Z}$ に対して $p \equiv 1 \pmod{4}$ ので、素数が 4 で割った余りが 1 になる必要十分条件により $$ N (\pi) = N ( u+ iv) = u^2 + v^2 = p $$ $\pi = u + iv$ がこれを満たすなら、パート0によってガウス素数である。
パート (iv). $ i^{k} \pi$
パート0で、$| N( \pi ) | = p$ が素数なら、$\pi$ はガウス素数だったので、$k \in \mathbb{Z}$ に対して $$ \begin{align*} N( i^{k} \pi ) =& N( i^{k} ) N (\pi ) \\ =& 1 \cdot N (\pi ) \\ =& p \end{align*} $$ これを満たす $i^{k} \pi $ も同様にガウス素数である。
パート (v). $\overline{\pi}$
パート0で、$| N( \pi ) | = x^2 + y^2 = p$ が 素数 なら、$\pi = x + i y$ はガウス素数だったので $$ \begin{align*} N( \overline{\pi} ) =& N( x - i y ) \\ =& x^2 + (-y)^2 \\ =& p \end{align*} $$ これを満たす $\overline{\pi}$ も同様にガウス素数である。
■
Silverman. (2012). A Friendly Introduction to Number Theory (4th Edition): p275. ↩︎