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自然な埋め込みと反射的な空間 📂バナッハ空間

自然な埋め込みと反射的な空間

定義1

$\left( X, \left\| \cdot \right\|_{X} \right)$をノルム空間としよう。そして、$X^{\ast \ast}=(X^{\ast})^{\ast}$を$X$の双対としよう。関数$J : X \to X^{\ast \ast}$を以下のように定義しよう。

$$ J(x)=J_{x},\quad x\in X $$

このとき、$J_{x} \in X^{\ast \ast}$は具体的に以下のように与えられる。

$$ J_{x} : X^{\ast} \to \mathbb{C} \quad \text{and} \quad J_{x}(x^{\ast})=x^{\ast}(x) $$

この場合、$J$は埋め込みになる。このような$J$を自然な埋め込みまたは自然な単射という。

説明

ノルム空間$X$が与えられると、自然に$X^{\ast \ast}$が与えられて、$X$から$X^{\ast \ast}$への埋め込みが存在する。この理由で、$J$を自然な埋め込みという。

証明

$J_{x}$は$X^{\ast \ast}$の元であるから、$X^{\ast}$の線形汎関数である。つまり、

$$ J_{x} : X^{\ast} \to \mathbb{C} $$

$X^{\ast}$の線形汎関数$J_{x}$を以下のように定義しよう。

$$ J_{x}(x^{\ast})=x^{\ast}(x),\quad x^{\ast} \in X^{\ast} $$

「写像$J$によって$x$から対応した$J_{x}$」は$x^{\ast}$を$x^{\ast}(x)$に対応させる。$J_{x}$が線形であることは簡単に示せる。

$$ \begin{align*} J_{x}(x^{\ast} + \alpha y^{\ast}) &= (x^{\ast} + \alpha y^{\ast})(x) \\ &= x^{\ast}(x) + \alpha y^{\ast}(x) \\ &= J_{x}(x^{\ast}) + \alpha J_{x}(y^{\ast}) \end{align*} $$

そして、以下の式が成り立つ。

$$ \begin{align*} |J_{x}(x^{\ast}) | =&\ | x^{\ast}(x)| \\ =&\ \left| \|x\|_{X} \frac{1}{\|x\|_{X}} x^{\ast}(x) \right| \\ =&\ \|x\|_{X} \left| x^{\ast}\left( \frac{x}{\|x\|_{X}} \right) \right| \\ \le & \| x \|_{X} \| x^{\ast} \|_{X^{\ast}} \end{align*} $$

3行目で、$\|x\|_{X}$は定数だから絶対値の外に出ることができ、$x^{\ast}$が線形だから$\frac{1}{\|x\|}_{X}$が関数の中に入った。また、4行目は$\left\| \frac{x}{\|x\|_{X}} \right\|_{X} = \frac{1}{\left\| x \right\|_{X}} \left\| x \right\|_{X} = 1$であり、双対のノルムの定義が次のようであるから成り立つ。

$$ \| x^{\ast} \|_{X^{\ast}} = \sup \limits_{\substack{ \| x \|_{X} = 1 \\ x\in X}} |x^{\ast}(x)| $$

よって、成り立つ。上記の結果から$J_{x}$のノルムを求めると

$$ \begin{align*} \| J_{x}||_{X^{\ast \ast}} =&\ \sup \limits_{\substack{ \|x^{\ast}\|_{X^{\ast}} = 1 \\ x^{\ast} \in X^{\ast}}} | J_{x}(x^{\ast})| \\ \le & \sup \limits_{\substack{\|x^{\ast}\|_{X^{\ast}} = 1 \\ x^{\ast} \in X^{\ast}}} \|x\|_{X} \|x^{\ast}\|_{X^{\ast}} \end{align*} $$

よって

$$ \begin{equation} \|J_{x} \|_{X^{\ast \ast}} \le \|x\|_{X} \end{equation} $$

ハーン-バナッハの拡張定理

$(X, \left\| \cdot \right\|_{X})$をノルム空間としよう。$Y \subset X$としよう。そして、$Y$の線形汎関数$y^{\ast} \in Y^{\ast}$が与えられたとしよう。そうすると、以下の式を満たす$X$の線形汎関数$x^{\ast} \in X^{\ast}$が存在する。

$$ x^{\ast}(y)=y^{\ast}(y),\quad \forall y \in Y \\[1em] \| x^{\ast}\|_{X^{\ast}} = \| y^{\ast}\|_{Y^{\ast}} $$

これで$X_{1} = \left\{ x \in X : \left\| x \right\|_{X}=1 \right\}$としよう。すると$X_{1} \subset X$であり、ハーン-バナッハの拡張定理により、$\left\| \cdot \right\|_{X_{1}} \in (X_{1})^{\ast}$に対して下記の条件を満たす$X$の線形汎関数$w^{\ast} \in X^{\ast}$が存在する。

$$ w^{\ast}(x_{1}) = \left\| x_{1} \right\|_{X_{1}} = 1,\quad \forall x_{1} \in X_{1} \\[1em] \|w^{\ast}\|_{X^{\ast}} = \left\| \left\| \cdot \right\|_{X_{1}} \right\|_{(X_{1})^{\ast}} = \sup\limits_{\substack{x \in X_{1}}} \left\| x_{1} \right\|_{X_{1}} = 1 $$

よって、任意の$x \in X$に対して、

$$ w^{\ast}\left( x \right) = w^{\ast}\left(\left\| x \right\|_{X} \frac{x}{\left\| x \right\|_{X}}\right) = \left\| x \right\|_{X} w^{\ast} \left( \frac{x}{\left\| x \right\|_{X}} \right) = \left\| x \right\|_{X} $$

上記の結果を総合すると、以下の式が成り立つ。

$$ \|J_{x}\|_{X^{\ast \ast}} = \sup \limits_{\substack{\|x^{\ast}\| = 1 \\ x^{\ast}\in X^{\ast}}} |J_{x}(x^{\ast})| \ge |J_{x}(w^{\ast})|=|w^{\ast}(x)|=\|x\|_{X}, \quad x \in X $$

よって、$(1)$の結果のように書くと

$$ \|x\|_{X} \le \|J_{x}\|_{X^{\ast \ast}} \le \|x\|_{X} $$

よって、$\|x\|_{X} = \|J_{x}\|_{X^{\ast \ast}}$である。つまり、$J$は等距離写像である。等距離写像は埋め込みであるから、$J$は$X$から$X^{\ast \ast}$への埋め込みになる。

定義

ナチュラルな埋め込み$J$について、$J(X)=X^{\ast \ast}$のとき、つまり$J$が全単射であるとき、ノルム空間$X$を反射的という。

説明

埋め込みについて簡単に再記述すると以下の通り。

$X$をノルム空間としよう。このとき$x\in X$、$x^{\ast \ast} \in X^{\ast \ast}$に対して下記の条件を満たすなら、$X$を反射的という。

$$ \| x \|_{X} = \| x^{\ast \ast} \|_{X^{\ast \ast}} $$

$X$とその双対に対する埋め込みの存在は$X \cong J(X) \subset X^{\ast \ast}$を意味する。つまり、$X$の双対を取ることは、$X$自体よりも徐々に大きくなる空間になるということである。しかし、$X$が反射的な空間である場合、双対を取ってもそのサイズは増加せず、サイズが維持される。つまり、$X^{\ast \ast}$は外見上$X$と異なるように見えるが、実際には同じ構造を持つ集合である。また、反射的な空間は常に完備である。つまり、反射的なノルム空間はバナッハ空間である。


  1. Robert A. Adams and John J. F. Foutnier, Sobolev Space (2nd Edition, 2003), p6-7 ↩︎