バナッハの不動点定理の証明
定義
$(X, \left\| \cdot \right\|)$をバナッハ空間としよう。全ての$x, \tilde{x} \in X$と$0 \le r < 1$に対して$\| T(x) - T ( \tilde{x} ) \| \le r \| x - \tilde{x} \|$を満たす$T : X \to X$を縮小写像contraction mappingと定義する。
$T ( \alpha ) = \alpha$を満たす$\alpha \in X$を不動点と言う。
定理 1
$T$の不動点は一意に存在する。
説明
バナッハ不動点定理は、縮小写像定理contraction mapping theoremとも呼ばれ、ヒルベルト空間を仮定した偏微分方程式の解や主に$\mathbb{R}^{n}$上での方法を扱う数値解析で便利に使われる。
実際、証明にはノルム自体が必要なわけではないため、$X$はバナッハ空間でなく完備距離空間に一般化できる。距離空間の$(X , d)$の距離を$d (x,y) := \| x - y \|$と定義すれば、全く同じ証明が成り立つ。
証明
Part 1. $T$ の連続性
$\displaystyle \delta := {{\varepsilon} \over {2}}$ とすると
$$ \| x - \tilde{x} \| < \delta = {{ \varepsilon } \over { 2 r }} $$
$$ \implies \| T(x) - T ( \tilde{x} ) \| \le r \| x - \tilde{x} \| = {{\varepsilon } \over {2}} < \varepsilon $$
したがって、$T$ は $X$ で連続関数である。
Part 2. $\alpha$ の存在性
シーケンス$\left\{ x_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$を$x_{n+1} := T ( x_{n} )$のように定義しよう。すると
$$ \| x_{n} - x_{n-1} \| = \| T(x_{n-1} )- T(x_{n-2}) \| = r \| x_{n-1} - x_{n-2} \| $$
再帰的に展開すると
$$ \begin{align*} \| x_{n} - x_{n-1} \| =& r \| x_{n-1} - x_{n-2} \| \\ =& r^2 \| x_{n-2} - x_{n-3} \| \\ \vdots& \\ =& r^{n-1} \| x_{1} - x_{0} \| \end{align*} $$
今、$n, m, k \in \mathbb{N}$に対して$n = m + k$とすると、三角不等式により
$$ \begin{align*} \| x_{n} - x_{m} \| =& \| x_{m+k} - x_{m} \| \\ \le & \| x_{m+k} - x_{m+(k-1) } \| + \cdots + \| x_{m+k} - x_{m+(k-1) } \| \\ \le & \| x_{m+1} - x_{m } \| \left( 1 + r + \cdots + r^{k} \right) \\ \le & \| x_{m+1} - x_{m } \| {{1 - r^{k}} \over {1 - r}} \\ \le & \| x_{m+1} - x_{m } \| {{1 } \over {1 - r}} \\ \le & {{ r^{m-1} } \over {1 - r}} \| x_{1} - x_{0} \| \end{align*} $$
したがって、$\left\{ x_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$はコーシーシーケンスである。$X$はバナッハ空間なので、$n \to \infty$の時に$x_{n}$は何らかの$\alpha \in X$に収束することがわかる。上記の**Part 1.**により、$T$は連続なので
$$ \begin{align*} T ( \alpha ) =& T \left( \lim_{n \to \infty } x_{n} \right) = \lim_{n \to \infty } T(x_{n} ) \\ =& \lim_{n \to \infty } x_{n+1} \\ =& \alpha \end{align*} $$
であり、$\alpha$は$T$の不動点である。
Part 3. $\alpha$ の一意性
$\beta \in X$も$T$の不動点だとしよう。
$$ \| \alpha - \beta \| \le \| T( \alpha ) - T ( \beta ) \| \le r \| \alpha - \beta \| $$
$$ \implies (1 - r ) \| \alpha - \beta \| \le 0 $$
$$ \implies \| \alpha - \beta \| \le 0 $$
$$ \implies \alpha = \beta $$
したがって、$T$の不動点$\alpha \in X$は一意である。
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または、バナッハ空間は距離空間であるためハウスドルフ空間であり、ハウスドルフ空間ではシーケンスが一意に収束するとも言える。
Kreyszig. (1989). Introductory Functional Analysis with Applications: p300~302. ↩︎