バナッハの不動点定理の証明
📂バナッハ空間バナッハの不動点定理の証明
定義
(X,∥⋅∥)をバナッハ空間としよう。全てのx,x~∈Xと0≤r<1に対して∥T(x)−T(x~)∥≤r∥x−x~∥を満たすT:X→Xを縮小写像contraction mappingと定義する。
T(α)=αを満たすα∈Xを不動点と言う。
定理
Tの不動点は一意に存在する。
説明
バナッハ不動点定理は、縮小写像定理contraction mapping theoremとも呼ばれ、ヒルベルト空間を仮定した偏微分方程式の解や主にRn上での方法を扱う数値解析で便利に使われる。
実際、証明にはノルム自体が必要なわけではないため、Xはバナッハ空間でなく完備距離空間に一般化できる。距離空間の(X,d)の距離をd(x,y):=∥x−y∥と定義すれば、全く同じ証明が成り立つ。
証明
Part 1. T の連続性
δ:=2ε とすると
∥x−x~∥<δ=2rε
⟹∥T(x)−T(x~)∥≤r∥x−x~∥=2ε<ε
したがって、T は X で連続関数である。
Part 2. α の存在性
シーケンス{xn}n∈Nをxn+1:=T(xn)のように定義しよう。すると
∥xn−xn−1∥=∥T(xn−1)−T(xn−2)∥=r∥xn−1−xn−2∥
再帰的に展開すると
∥xn−xn−1∥==⋮=r∥xn−1−xn−2∥r2∥xn−2−xn−3∥rn−1∥x1−x0∥
今、n,m,k∈Nに対してn=m+kとすると、三角不等式により
∥xn−xm∥=≤≤≤≤≤∥xm+k−xm∥∥xm+k−xm+(k−1)∥+⋯+∥xm+k−xm+(k−1)∥∥xm+1−xm∥(1+r+⋯+rk)∥xm+1−xm∥1−r1−rk∥xm+1−xm∥1−r11−rrm−1∥x1−x0∥
したがって、{xn}n∈Nはコーシーシーケンスである。Xはバナッハ空間なので、n→∞の時にxnは何らかのα∈Xに収束することがわかる。上記の**Part 1.**により、Tは連続なので
T(α)===T(n→∞limxn)=n→∞limT(xn)n→∞limxn+1α
であり、αはTの不動点である。
Part 3. α の一意性
β∈XもTの不動点だとしよう。
∥α−β∥≤∥T(α)−T(β)∥≤r∥α−β∥
⟹(1−r)∥α−β∥≤0
⟹∥α−β∥≤0
⟹α=β
したがって、Tの不動点α∈Xは一意である。
■
または、バナッハ空間は距離空間であるためハウスドルフ空間であり、ハウスドルフ空間ではシーケンスが一意に収束するとも言える。