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最短ベクトル定理の証明 📂ヒルベルト空間

最短ベクトル定理の証明

定理1

$\left( H, \left\langle \cdot,\cdot \right\rangle \right)$をヒルベルト空間としよう。$M \lneq H$を空集合ではなく閉じた部分集合としよう。すると$\mathbf{x} \in ( H \setminus M)$に対して

$$ \delta := \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{0} \| = \inf_{\mathbf{m} \in M} \| \mathbf{x} - \mathbf{m} \| > 0 $$

を満たす$\mathbf{m}_{0} \in M$が唯一存在する。

説明

部分空間$M$がであるというのは、全ての$\mathbf{x},y \in M$と$\lambda \in [0,1]$に対して以下が成立するということだ。

$$ \lambda \mathbf{x} + (1-\lambda) y \in M $$

些細なことに見えるけど、よく考えれば、ただの一般的な位相空間では$\mathbf{m}_{0}$が唯一である理由がない。

20181119\_041823.png

簡単に図式化して考えると、上の図の右の部分空間$M$がかなり単純で、この定理が成立する理由だ。

一方、証明からわかるように、ヒルベルト空間でない内積空間では成立しない。

証明

  • パート1. $\delta >0$

    $\delta = 0$と仮定すると、

    $$ \lim_{k \to \infty } \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} \| = \delta = 0 $$

    この条件を満たす数列$\left\{ \mathbf{m}_{k} \right\}_{k \in \mathbb{N}}$が存在する。つまり$k \to \infty$の時$\mathbf{m}_{k} \to \mathbf{x} \in \overline{M} = M$で、これは$\mathbf{x} \in ( H \setminus M)$に矛盾する。

  • パート2. 存在

    平行四辺形等式により、

    $$ \begin{align*} \| \mathbf{m}_{k} - \mathbf{m}_{j} \|^2 &= \| ( \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} ) - ( \mathbf{x} - \mathbf{m}_{j} ) \|^2 \\ =& 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} \|^2 + 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{j} \|^2 - \| ( \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} ) + ( \mathbf{x} - \mathbf{m}_{j} ) \|^2 \\ =& 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} \|^2 + 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{j} \|^2 - 4 \left\| \mathbf{x} - {{ \mathbf{m}_{k} + \mathbf{m}_{j} } \over {2}} \right\|^2 \\ \le & 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} \|^2 + 2 \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{j} \|^2 - 4 \delta^2 \end{align*} $$

    したがって$k,j \to \infty$の時、

    $$ \| \mathbf{m}_{k} - \mathbf{m}_{j} \|^2 \to 4 \delta^2 - 4 \delta^2 $$

    $\left\{ \mathbf{m}_{k} \right\}_{k \in \mathbb{N}}$はコーシー列だ。したがって$H$はヒルベルト空間であるため、$\mathbf{m}_{k} \to \mathbf{m}_{0}$となる$\mathbf{m}_{0} \in H$が存在する。

    $$ \mathbf{m}_{k} \to \mathbf{m}_{0} \in \overline{M} = M $$

    ノルムは連続関数であるため、

    $$ \| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{0} \| = \left\| \mathbf{x} - \lim_{k \to \infty} \mathbf{m}_{k} \right\| = \lim_{k \to \infty} \left\| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{k} \right\| = \delta $$

  • パート3. 唯一性

    $\| \mathbf{x} - \mathbf{m}_{0} ' \| = \delta$となる$\mathbf{m}_{0} ' \in M$が存在すると仮定してみると、

    $$ \| \mathbf{m}_{0} - \mathbf{m}_{0} ' \| \le 2 \| \mathbf{m}_{0} - \mathbf{m}_{k} \|^2 + 2 \| \mathbf{m}_{0}’ - \mathbf{m}_{j} \|^2 - 4 \delta^2 = 4 \delta^2 - 4 \delta^2 = 0 $$

    したがって$\mathbf{m}_{0} = \mathbf{m}_{0} ' $でなければならない。


  1. Ole Christensen, Functions, Spaces, and Expansions: Mathematical Tools in Physics and Engineering (2010), p67-68 ↩︎