リーマン計量とリーマン多様体
定義1
$n$次元の微分可能多様体 $M$に対するリーマン計量Riemannian metric, リーマン計量 $g$とは、各点$p \in M$を$g_{p}$に対応させる関数のことだ。ここで、$g_{p}$は$p$上の接空間 $T_{p}M$で定義される内積である。
$$ \begin{align*} g : M &\to \left\{ \text{all inner products on tangent space } T_{p}M \right\} \\ p &\mapsto g_{p}=\left\langle \cdot, \cdot \right\rangle_{p} \end{align*} $$
$$ \begin{align*} g_{p} : T_{p}M \times T_{p}M &\to \mathbb{R} \\ (\mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p}) &\mapsto g_{p}(\mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p})=\left\langle \mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p} \right\rangle_{p} \end{align*} $$
この場合、$g_{p}$は次の意味で微分可能でなければならない。
$\mathbf{x} : U \subset \mathbb{R}^{n} \to M$を$p$の周りの座標系とし、$\mathbf{x}(x_{1}, \dots, x_{n}) = p$とする。すると、次の$g_{ij} : \mathbb{R}^{n} \to \mathbb{R}$が微分可能でなければならない。
$$ g_{ij} (x_{1}, \dots, x_{n}) = \left\langle \left. \dfrac{\partial }{\partial x_{i}} \right|_{p}, \left. \dfrac{\partial }{\partial x_{j}} \right|_{p}\right\rangle_{p} $$
$g_{ij}$をリーマン計量の局所表現と言う。リーマン計量が与えられた微分多様体$(M, g)$をリーマン多様体と呼ぶ。
説明
リーマン多様体$(M, g)$を研究することをリーマン幾何学と呼ぶ。$g$をRiemannian structureとも呼ぶ。$g_{ij}$は微分幾何学で第1基本形式の係数と学ぶ。
$\mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p} \in T_{p}M$としよう。すると、$T_{p}M$は基底が$\left\{ \left. \dfrac{\partial }{\partial x_{i}} \right|_{p} \right\}$の$n$次元ベクトル空間であるため、
$$ \mathbf{X}_{p} = X^{i}(p)\left. \dfrac{\partial }{\partial x_{i}} \right|_{p} \text{ and } \mathbf{Y}_{p} = Y^{j}(p)\left. \dfrac{\partial }{\partial x_{j}} \right|_{p} $$
だから、
$$ g_{p}(\mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p}) = \left\langle \mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p} \right\rangle = X^{i}(p)Y^{j}(p) \left\langle \left. \dfrac{\partial }{\partial x_{i}} \right|_{p}, \left. \dfrac{\partial }{\partial x_{j}} \right|_{p} \right\rangle = X^{i}(p)Y^{j}(p)g_{ij}(p) $$
$p$を一般化すると、
$$ g(\mathbf{X}, \mathbf{Y}) = X^{i}Y^{j} \left\langle \dfrac{\partial }{\partial x_{i}}, \dfrac{\partial }{\partial x_{j}} \right\rangle = X^{i}Y^{j}g_{ij} $$
微分可能性の条件の別の表現は次の通り。
多様体上で定義される関数$g(\mathbf{X}, \mathbf{Y}) : M \to \mathbb{R}$が微分可能である。
$$ g(\mathbf{X}, \mathbf{Y}) (p) = g_{p} (\mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p}), \quad \mathbf{X}_{p}, \mathbf{Y}_{p} \in T_{p}M $$
この場合、$g(\mathbf{X}, \mathbf{Y})_{p} = g(\mathbf{X}, \mathbf{Y}) (p)$と表記されることもある。
「すべての微分可能多様体はリーマン計量を持つ」という事実が知られている。したがって、研究の方向性は、「多様体$M$がリーマン計量を持つ条件」ではなく、「多様体$M$にどのような良いリーマン計量を与えることができるか」となる。
誘導された計量
微分多様体$M, N$間のイマージョン $f : M \to N$が与えられたとする。$(N, h)$がリーマン多様体であるとする。次のように定義される$M$上のリーマン計量$g$を$f$から誘導された計量と呼ぶ。
$$ g_{p}(v, w) := h_{f(p)}(df_{p}(v), df_{p}(w)) $$
この場合、$df_{p}$は点$p$での$f$の微分である。
ユークリッド空間
微分可能多様体としてのユークリッド空間$M = \mathbb{R}^{n}$を考えよう。すると、$T_{p}\mathbb{R}^{n} \approx \mathbb{R}^{n}$であり、基底$\left\{ \dfrac{\partial }{\partial x}_{i} \right\}$はユークリッド空間の標準基底$\left\{ e_{i} = (0, \dots, 1, \dots, 0) \right\}$と同じである。したがって、計量の係数は次の通りである。
$$ g_{ij} = \left\langle e_{i}, e_{j} \right\rangle = \delta_{ij} $$
したがって、ユークリッド空間のリーマン計量は、ユークリッド空間自体で標準的に定義される内積そのものである。$(\mathbb{R}^{n}, g)$を研究することをユークリッド幾何学と呼ぶ。
Manfredo P. Do Carmo, Riemannian Geometry (Eng Edition, 1992), p38-39 ↩︎