行列の基本空間
説明1
行列$A$が与えられたとしよう。すると、我々は$A$に対して次の6つの空間を考えることができる。
$A$の行空間, $A^{T}$の行空間
$A$の列空間, $A^{T}$の列空間
$A$の零空間, $A^{T}$の零空間
しかし、$A$の行ベクトルは$A^{T}$の列ベクトルと同じで、$A$の列ベクトルは$A^{T}$の行ベクトルと同じなので、$A$の行空間と$A^{T}$の列空間が同じである。同じ理由で、$A$の列空間と$A^{T}$の行空間も同じなので、我々は次の4つの行列を考えることができる。
$A$の行空間, $A$の列空間
$A$の零空間, $A^{T}$の零空間
これら4つの空間はまとめて、行列$A$の基本空間fundamental spacesと呼ばれる。
定理1
任意の行列$A$に対して、
$$ \rank(A) = \rank(A^{T}) $$
証明
$A$の行空間と$A^{T}$の列空間が同じなので、ランクの定義により、
$$ \rank(A) = \dim(\mathcal{R}(A)) = \dim(\mathcal{C}(A^{T})) = \rank(A^{T}) $$
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定理2
$A$を$m \times n$の行列としよう。
(a) $A$の零空間と$A$の行空間は$\mathbb{R}^{n}$で互いに直交補空間である。
$$ \mathcal{N}(A) \oplus \mathcal{R}(A) = \mathbb{R}^{n} $$
(b) $A^{T}$の零空間と$A$の列空間は$\mathbb{R}^{m}$で互いに直交補空間である。
$$ \mathcal{N}(A^{T}) \oplus \mathcal{C}(A) = \mathbb{R}^{m} $$
証明
戦略:定義を使って直接演繹する。 (a)の証明のみ紹介する。(b)の証明も本質的には同じである。
まず$\mathcal{N} (A) = \mathcal{R} (A)^{\perp}$であることを示そう。$\mathbf{x} \in \mathcal{N} (A)$とすると、零空間の定義により次のようになる。
$$ A \mathbf{x} = \mathbf{0} $$
両辺に$\mathbf{y} \in \mathbb{R}^{n}$と内積を取ると次のようになる。
$$ \mathbf{y}^{T} ( A \mathbf{x} ) = \mathbf{0} $$
行列の積の結合法則により$( \mathbf{y}^{T} A ) \mathbf{x} = \mathbf{0}$であり、転置行列の性質により$( A^{T} \mathbf{y} ) ^{T} \mathbf{x} = \mathbf{0}$なので、直交の定義により次のようになる。
$$ A^{T} \mathbf{y} \perp \mathbf{x} $$
すると直交補空間の定義により次のようになる。
$$ \mathbf{x} \in \mathcal{R} (A)^{\perp} $$
この内容をまとめると$\mathbf{x} \in \mathcal{N} (A)\implies \mathbf{x} \in \mathcal{R} (A)^{\perp}$になるので次の結果を得る。
$$ \mathcal{N} (A) \subset \mathcal{R} (A)^{\perp} $$
この過程を逆方向に繰り返せば$\mathcal{N} (A) \supset \mathcal{R} (A)^{\perp}$を得ることができるので、次の結果を得る。
$$ \mathcal{N} (A) = \mathcal{R} (A)^{\perp} $$
両辺に$^{\perp}$を取ると次のようになる。
$$ \mathcal{N} (A)^{\perp} = \mathcal{R} (A) $$
これらは両方とも$\mathbb{R}^{n}$の部分空間なので、次を得る。
$$ \mathcal{N}(A) \oplus \mathcal{R}(A) = \mathbb{R}^{n} $$
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Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Aplications Version (12th Edition, 2019), p261-263 ↩︎