二次形式が0になるための必要十分条件
定理
行列の形
$A \in \mathbb{C}^{n \times n}$が行列を表し、$\mathbf{x} \in \mathbb{C}^{n}$がベクトルを表すとする。
すべての$\mathbf{x} \in \mathbb{C}^{n}$に対して二次形式$\mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x}$が$0$になるための必要十分条件は、$A$が零行列であることである: $$ \mathbf{x}^{*} A \mathbf{x} = 0 , \forall \mathbf{x} \in \mathbb{C}^{n} \iff A = O $$
線形変換の形
$\left( V, \mathbb{C} \right)$が有限次元複素内積空間であるとき、$T : V \to V$が線形変換を表し、$v \in V$がベクトルを表すとする。
すべての$v \in V$に対して二次形式$\left< T v , v \right>$が$0$になるための必要十分条件は、$T$が零変換$T_{0}$であることである: $$ \left< T v , v \right> = 0 , \forall v \in V \iff T = T_{0} $$
証明
両方の形での証明は本質的に同じであるため、参考文献にはない行列の形のみ示される1。
$(\implies)$
$A \ne O$と仮定し、背理法を使う。
$\mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} = 0$が成立するということは、両側に任意のスカラー $\overline{\lambda} \in \mathbb{C}$を掛けても$\overline{\lambda} \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} = 0$となるということである。これが全ての$\mathbf{x}$に対して成立するということは、$\mathbf{x}$が$A$の固有値$\lambda$に対応する固有ベクトルである場合も適用されるということで、行列内積で表された場合 $$ \begin{align*} & 0 \\ =& \overline{\lambda} \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} \\ =& \left( \lambda \mathbf{x} \right)^{\ast} \left( A \mathbf{x} \right) \\ =& \left( \lambda \mathbf{x} \right) \cdot \left( \lambda \mathbf{x} \right) \end{align*} $$ 内積の正定値性$\mathbf{v} \cdot \mathbf{v} = \mathbf{0} \iff \mathbf{v} = \mathbf{0}$により、$A$のすべての固有値は$0$でなければならない。
冪零行列と固有値:正方行列 $A \in \mathbb{R}^{n \times n}$のすべての固有値が$0$で、$A$が冪零行列であることは同値である。
つまり、$A$は冪零行列である。一方、$A \ne O$の場合、ゼロでない何らかの$\mathbf{y} \ne 0$に対して$\mathbf{y} = A \mathbf{x}$を満たすベクトル$\mathbf{x} \in \mathbb{C}^{n}$が少なくとも一つ存在しなければならない。既に$A$が冪零行列であることを示したので、一般性を失わずに$A \mathbf{y} = \mathbf{0}$とすると $$ \begin{align*} & 0 \\ =& \left( \mathbf{x} + \mathbf{y} \right)^{\ast} A \left( \mathbf{x} + \mathbf{y} \right) & \because 0 = \mathbf{z}^{\ast} A \mathbf{z}, \forall \mathbf{z} \in \mathbb{C}^{n} \\ =& \left( \mathbf{x} + \mathbf{y} \right)^{\ast} \left( A \mathbf{x} + A \mathbf{y} \right) \\ =& \left( \mathbf{x} + \mathbf{y} \right)^{\ast} \left( \mathbf{y} + \mathbf{0} \right) \\ =& \left( \mathbf{x}^{\ast} + \mathbf{y}^{\ast} \right) \mathbf{y} \\ =& \mathbf{x}^{\ast} \mathbf{y} + \mathbf{y}^{\ast} \mathbf{y} \\ =& \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} + \mathbf{y}^{\ast} \mathbf{y} & \because \mathbf{y} = A \mathbf{x} \implies \mathbf{x}^{\ast} \mathbf{y} = \mathbf{x}^{\ast} A \mathbf{x} \\ =& 0 + \mathbf{y}^{\ast} \mathbf{y} \end{align*} $$ となる。つまり$\mathbf{y} \cdot \mathbf{y} = 0$であるが、もう一度内積の正定値性に従い、$\mathbf{y} = 0$でなければならないが、これは$\mathbf{y} \ne 0$としての$\mathbf{y}$の定義に矛盾する。結論として、$A = O$を得る。
$(\impliedby)$
自明である。
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