フーリエ変換の複数の定義と記法
概要
フーリエ変換の定義や記法は、作者のニーズや好みによってさまざまに表れる。だから、教科書や講義、論文などでフーリエ変換を扱う前に、定義や記法をしっかりと把握しておくことが多い。知っている概念だと思って定義を省略して読んでいると、式がおかしいと感じることがあるので、よく確認する必要がある。もちろん、最も重要なのは、これらの定義が本質的に全て同じであることなので、記法や定義自体について大きく心配する必要はない。この文書では、各定義の長所と短所、そして違いについて紹介する。
説明1
フーリエ変換は、周期が実数全体である関数のフーリエ級数を考える過程から自然に導かれる。その過程で、フーリエ変換とフーリエ逆変換は次のように定義される。
フーリエ変換 | フーリエ逆変換 |
---|---|
$\displaystyle \hat{f}(\xi):=\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-i \xi x}dx$ | $\displaystyle f(x):=\frac{1}{2\pi}\int _{-\infty} ^{\infty}\hat{f}(\xi)e^{i \xi x}d\xi$ |
ここで、$\hat{}$は「ハット」と読む。$\hat{f}(\xi)$は「エフハット クシ」と読む。作用素としての感じ、積分変換としての感じを強調したいときや、微分を意味する${}^{\prime}$記号と$\hat{}$記号を一緒に使う必要があるとき、または混乱を避けるために、以下のような記法で書くこともある。
フーリエ変換 | フーリエ逆変換 |
---|---|
$\mathcal{F}:L^{1} \to L^{1}$ | $\mathcal{F}^{-1}:L^{1} \to L^{1}$ |
$\displaystyle \mathcal{F}f(\xi):=\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-i \xi x}dx$ | $\displaystyle \mathcal{F}^{-1}f(x):=\frac{1}{2\pi}\int _{-\infty} ^{\infty}f(\xi)e^{i \xi x}d\xi$ |
$\mathscr{F}$も使われることがある。記法の違いはあるが、フーリエ変換自体の定義も以下のように異なる場合がある。
フーリエ変換 | フーリエ逆変換 |
---|---|
$\displaystyle \hat{f}(\xi):=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-i \xi x}dx$ | $\displaystyle f(x):=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int _{-\infty} ^{\infty}\hat{f}(\xi)e^{i \xi x}d\xi$ |
$\displaystyle \hat{f}(\xi):=\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-2\pi i \xi x}dx$ | $\displaystyle f(x):=\int _{-\infty} ^{\infty}\hat{f}(\xi)e^{2\pi i \xi x}d\xi$ |
説明の便宜のため、上記の各定義を以下のように表記しよう。
$$ \tilde{f}(\xi):=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-i \xi x}dx \quad \text{and} \quad \check{f}(\xi):=\int _{-\infty} ^{\infty}f(x)e^{-2\pi i \xi x}dx $$
フーリエ変換の定義が多様な理由は、下記の表から見ることができる。
プランシェレルの定理 | 畳み込み | 導関数のフーリエ変換 |
---|---|---|
$\| \hat{f} \|^{2} =2\pi\left\| f \right\|^{2}$ | $(f \ast g)\hat{}=\hat{f}\hat{g}$ | $(f^{\prime})\hat{} (\xi)=i\xi \hat{f}(\xi)$ |
$\| \tilde{f} \|^{2}=\left\| f \right\|^{2}$ | $(f \ast g)\tilde{}=\sqrt{2\pi}\tilde{f}\tilde{g}$ | $(f^{\prime})\tilde{} (\xi)=i\xi \tilde{f}(\xi)$ |
$\| \check{f} \|^{2}=\left\| f \right\|^{2}$ | $(f \ast g)\check{}=\check{f}\check{g}$ | $(f^{\prime})\check{} (\xi)=2\pi i\xi \check{f}(\xi)$ |
この表から見てわかるように、定義によっては、定数$2\pi$が出現する式が異なる場合がある。したがって、どのような式を簡単にしたいかによって、定義が異なる場合がある。経験的には、信号や画像処理分野では$\check{f}$のような定義が多く使われる。また、フーリエ変換の定義では、指数にマイナス$(-)$がない場合もある。その場合は、逆変換側に付いているので、知っている定義と異なると混乱しないように注意しよう。
Gerald B. Folland, Fourier Analysis and Its Applications (1992), p223-224 ↩︎