直交座標系におけるベクトル関数の発散
📂数理物理学直交座標系におけるベクトル関数の発散
定義
ベクトル関数 F(x,y,z)=Fxx^+Fyy^+Fzz^について、以下のようなスカラー関数をFのダイバージェンスdivergence, 発散と定義し、∇⋅Fと表記する。
∇⋅F:=∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz
説明
幾何学的に∇⋅F>0の場合、Fが広がり出る、外へ出る形をしていることを意味し、∇⋅F<0の場合はFが集まる、内へ入る形をしていることを意味し、∇⋅F=0の場合はFが広がりも集まりもしない、出入りの量が同じ形をしていることを意味する。
ダイバージェンスは発散と翻訳される。生エビ寿司屋では、勾配をグラディエント、回転をカールと使うため、統一感のために発散ではなくダイバージェンスと表記する。
定義で∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fzという値を∇⋅Fで表記することに注意しよう。∇をデル演算子と呼ぶことはあるが、これ自体に何か意味を持つと考えると∇⋅Fや∇×Fを内積と外積と間違えやすい。だから∇は単なる便利な表記法程度にしか理解しないほうがよく、グラディエント、ダイバージェンス、カールをまとめてデル演算子たちと呼んだり、むしろデル演算子=グラディエントと考えるほうがよいかもしれない。詳細は以下で続ける。
注意点
∇⋅Fは∇とFの内積ではない
∇⋅Fは絶対に
∇と
Fの内積ではない。
内積は基本的に二つのベクトル同士の演算である。∇⋅Fを内積と考えることは、∇を以下のようなベクトルと見なすことである。
∇=?∂x∂x^+∂y∂y^+∂z∂z^=(∂x∂, ∂y∂, ∂z∂)
確かにこのように考えると、次のようにダイバージェンスの定義(1)通りに計算がうまくいくので便利であることは事実である。
∇⋅F=(∂x∂, ∂y∂, ∂z∂)⋅(Fx,Fy,Fz)=∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz
しかし、これが実際に内積であれば、内積は交換法則が成立するため、以下のような等式が成立するという奇妙な結論になる。
F⋅∇=Fx∂x∂+Fy∂y∂+Fz∂z∂=?∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz=∇⋅F
実際には∇⋅の実体はベクトル関数 F(x,y,z)をスカラー関数 ∂x∂Fx(x,y,z)+∂y∂Fy(x,y,z)+∂z∂Fz(x,y,z)に対応させる演算子である。これが何を意味するかというと、divという関数を次のように定義してみよう。
div(F):=∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz,F=(Fx,Fy,Fz)
ここには内積だとかそういう言葉は一切ない。divという関数は単に変数Fが代入されるたびに∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fzを与える関数である。これを定義してみると、∇というものを∇=∂x∂x^+∂y∂y^+∂z∂z^と同じベクトルと考えるとdivの関数値を表記するのが非常に便利で直感的であることがわかる。だからdiv(F)と表記する代わりに、∇⋅Fと表記するのである。実際に専門の数学の教科書では、ダイバージェンスをdivと表記することが容易に見つかるが、これは物理学部と異なり3次元ベクトルを直感的に扱わないためであると考えられる。
では∇⋅Fを交換法則が成立しない内積として考えてはいけないのか?
いけない。なぜなら∇⋅Fで∇⋅自体が関数(演算子)でありFが変数である。一方でF⋅∇はそのもの自体が関数(演算子)であるためである。したがって∇⋅Fは関数∇⋅の関数値であり、F⋅∇は(まだ変数が代入されていない)関数である。具体的にF⋅∇という表記は次のような関数fを直感的
に簡単に表記したものである。fはベクトル関数Aを変数とする演算子であり、Aの各成分に(Fx∂x∂+Fy∂y∂+Fz∂z∂)を適用する関数である。
f(A)=definition=notation(Fx∂x∂Ax+Fy∂y∂Ax+Fz∂z∂Ax)x^+(Fx∂x∂Ay+Fy∂y∂Ay+Fz∂z∂Ay)y^+(Fx∂x∂Az+Fy∂y∂Az+Fz∂z∂Az)z^(F⋅∇)(A)
何かスカラー関数ϕが変数としてある場合、次のような演算子と考える。
f(ϕ)=definition=notationFx∂x∂ϕ+Fy∂y∂ϕ+Fz∂z∂ϕ(F⋅∇)(ϕ)
したがって∇⋅FとF⋅∇は∇とFの内積として理解してはいけず、∇⋅とF⋅∇自体を一つの関数として考えなければならない。これはもちろんダイバージェンスに限った説明ではなく、グラディエント∇fやカール∇×Fも同様に理解しなければならない。
導出
まず以下のように3次元空間で微小体積を考えてみよう。

今、我々の目的はFがその微小体積内の各座標でどのように見えるかを知ることである。現実に例えるならばFが熱であればどの方向に、どの速度で流れているかを、Fが水であればこれが蛇口から出ている水なのか、排水溝に入っていく水なのかを知りたいということである。まずx軸方向だけを計算してみよう。Fがda1を通過する量は二つのベクトルの内積で求めることができる。
F(x+dx)⋅da1=(Fx(x+dx)x^+Fy(x+dx)y^+Fz(x+dx)z^)⋅dydzx^=Fx(x+dx)dydz
Fx(x+dx)dydz>0の場合、Fが微小体積を抜け出る量であり、Fx(x+dx)dydz<0の場合はFが微小体積に入る量である。同様にFがda2を抜け出る量は以下のようである。
F(x)⋅da2=Fx(x)x^⋅(−dydzx^)=−Fx(x)dydz
したがって(2)+(3)は微小体積でのFのx軸方向の流入量(流出量)である。
(2)+(3)=[Fx(x+dx)−Fx(x)]dydz=dxFx(x+dx)−Fx(x)dxdydz
しかしdxが微小距離であるため、dxFx(x+dx)−Fx(x)≈∂x∂Fxと同様に近似できる。したがってFがx軸方向へ微小体積に入るまたは出る量は以下のように表される。
∂x∂Fxdxdydz
同様にy軸方向、z軸方向について計算すると以下の結果を得る。
∂y∂Fydxdydzand∂z∂Fzdxdydz
これを全て足すとFが微小体積に入るまたは出る量となり、dxdydzで割ると単位体積あたりの流入量(流出量)となる。
∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz
これからこれをFのダイバージェンスと呼び、∇⋅Fと表記しよう。
∇⋅F:=∂x∂Fx+∂y∂Fy+∂z∂Fz
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導出される過程を見ても分かるように、上で述べた通り∇⋅Fは絶対に∇とFの内積ではない。この点に注意しよう。
関連する公式
線形性:
積の規則:
∇⋅(fA)=f(∇⋅A)+A⋅(∇f)
∇⋅(A×B)=B⋅(∇×A)−A⋅(∇×B)
二階導関数:
∇⋅(∇T)=∂x2∂2T+∂y2∂2T+∂z2∂2T
∇(∇⋅A)
∇⋅(∇×A)=0
ガウスの定理 (発散定理)
∫V∇⋅FdV=∮SF⋅dS
積分公式
∫V[T∇2U+(∇T)⋅(∇U)]dτ=∮S(T∇U)⋅da
∫V(T∇2U−U∇2T)dτ=∮S(T∇U−U∇T)⋅da
部分積分
∫VA⋅(∇f)dτ=∮SfA⋅da−∫Vf(∇⋅A)dτ
参照