距離空間内のコーシー数列と完備性
定義
$\left\{ p_{n} \right\}$を距離空間$(X,d)$の点の数列とする。全ての正の数$\varepsilon$に対して
$$ n\ge N,\ m\ge N \implies d(p_{n},p_{m})<\varepsilon $$
が成り立つ正の数$N$が存在するならば、$\left\{ p_{n} \right\}$をコーシー数列Cauchy sequenceという。
距離空間$X$の全てのコーシー数列が$X$の点に収束するならば、$X$を完備空間という。
説明
以下の定理により、全てのコンパクト距離空間とユークリッド空間は完備であることがわかる。
定理
(a) 距離空間で、全ての収束する数列はコーシー数列である。
(b) $X$がコンパクト距離空間で$\left\{ p_{n} \right\}$が$X$のコーシー数列であるとする。その場合、$\left\{ p_{n} \right\}$はある$p\in X$に収束する。
(c) $\mathbb{R}^{k}$で、全てのコーシー数列は収束する。
(a), (b) を一緒に言えば、「コンパクト距離空間で収束する数列とコーシー数列は同値である」となる。
証明
(a)
$p_{n} \to p$かつ$\varepsilon >0$が与えられたとする。それならば$\forall n \ge N,\ d(p,p_{n})<\varepsilon$を満たす$N$が存在する。したがって、次が成り立つ:
$$ d(p_{n},p_{m}) \le d(p_{n},p)+d(p,p_{m})<2\varepsilon,\quad \forall m,n\ge N $$
従って、定義により$\left\{ p_{n} \right\}$はコーシー数列である。
■
(b)
$\left\{ p_{n} \right\}$をコンパクト距離空間$X$のコーシー数列とする。そして、任意の自然数$N$に対して次のようであるとする:
$$ E_{N}=\left\{ p_{N},p_{N+1},p_{N+2},\cdots\right\} $$
すると、次が成り立つ:
また、$\overline{E_{N}}$はコンパクト空間$X$の閉じた部分集合なので、$\overline{E_{N}}$はコンパクトである。さらに、次の式が成り立つことは自明である:
$$ E_{N}\supset E_{N+1} \quad \text{and} \quad \overline{E_{N}}\supset \overline{E_{N+1}} $$
従って、上記の条件から、$\forall N \in \mathbb{N},\ p \in \overline{E_{N}}$を満たす唯一の$p \in X$が存在する1ことがわかる。今、$\varepsilon >0$が与えられたとする。それならば$\eqref{eq1}$により、
$$ N \ge N_{0}\implies \mathrm{diam\ }\overline{E_{N}}< \varepsilon $$
が成り立つ$N_{0}$が存在する。しかし、$\mathrm{diam\ }\overline{E}=\mathrm{diam\ }E$かつ$p \in \overline{E_{N}}$であるので、全ての$q \in E_{N}$に対して$d(p,q)<\varepsilon$が成り立つ。言い換えると、次のようになる:
$$ n \ge N_{0} \implies d(p_{n},p)< \varepsilon $$
これは$p_{n}\to p$の定義なので、$\lim \limits_{n\to\infty} p_{n}=p$
■
(c)
$\left\{ \mathbf{x}_{n} \right\}$を$\mathbb{R}^{k}$でのコーシー数列とする。$E_{N}$を証明 (b) と同じものとする。それならば、
$$ \mathrm{diam\ } E_{N} <1 $$
を満たす$N$を選んだとする。そして、
$$ r=\max \left\{ d(\mathbf{x}_{N},\mathbf{x}_{1}),\ d(\mathbf{x}_{N},\mathbf{x}_{2}),\ \cdots,\ d(\mathbf{x}_{N},\mathbf{x}_{N-1}),\ 1 \right\} $$
だとするなら、$\forall m,n \in \mathbb{N},\ d(\mathbf{x}_{n},\mathbf{x}_{m}) <r$のため、$\left\{ \mathbf{x}_{n} \right\}$は有界である。したがって、$\overline{ \left\{ \mathbf{x}_{n} \right\}}$は閉じていて有界な$\mathbb{R}^{k}$の部分集合なので、コンパクトである。従って、$\left\{ \mathbf{x}_{n} \right\}$はコンパクト空間のコーシー数列であり、したがって**(b)**により、$\left\{ \mathbf{x}_{n} \right\}$は収束する。
■
定理(b)参照 ↩︎