符号測度の絶対連続性
定義1
可測空間 $(X, \mathcal{E})$ における 符号付き測度 $\nu$ と 正の測度 $\mu$ が与えられているとする。すべての $E \in \mathcal{E}$ に対して
$$ \mu (E) = 0 \implies \nu (E) = 0 $$
この場合、$\nu$ は $\mu$ に対して絶対連続であるabsolutely continuousといい、$\nu \ll \mu$ と表示される。
説明
これは測度に対する絶対連続の一般化である。絶対連続な測度のように、次の同値条件が成り立つ。
$$ \nu \ll \mu \\ \iff \forall \varepsilon > 0, \exists \delta > 0 : E \in \mathcal{E}, \mu ( E ) < \delta \implies |\nu (E)| < \varepsilon $$
証明
$\nu \ll \mu\ \iff |\nu| \ll \mu$ かつ、$| \nu (E)| \le |\nu| (E)$ であるから、$\nu=$$| \nu|$を仮定して証明してもよい。正の測度に対してこちらで論じられていることが成立するので、証明完了
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また、各符号付き測度 $\nu$ の変動 $|\nu|$, $\nu^{+}$, $\nu^{-}$が正の測度 $\mu$ と相互に特異であることが同値であったように、絶対連続もまたそうである。
定理1
以下の三つの条件は全て同値である。
- (a) $\nu \ll \mu$
- (b) $| \nu | \ll \mu$
- (c) $\nu^{+} \ll \mu \quad \text{and} \quad \nu^{-} \ll \mu$
証明
(a) $\implies$ (b)
$E\in \mathcal{E}$ に対して、$\mu (E)=0$ としよう。$\mu$ は正の測度であるから、全ての $F\subset E$、$F \in \mathcal{E}$ に対して $\mu (F)=0$が成り立つ。それにより、仮定により以下が成り立つ。
$$ \nu (F) =0,\quad \forall F\subset E $$
従って、零集合の定義により、$E$ は $\nu$-nullである。$E$が $\nu$-nullならば $|\nu |$-nullなので、以下が成り立つ。
$$ | \nu| (E)=0 $$
従って、$\mu (E)=0$ の時、$| \nu |(E)=0$ が成り立つので、以下を得る。
$$ | \nu | \ll \mu $$
(b) $\implies$ (c)
証明方法は上と同じなので、具体的な説明は省略する。$\mu (E)=0$ としよう。すると、$E$ は $| \nu |$-nullである。それにより、$E$ が $\nu^{+}$null、$\nu^{-}$null ならば、$\nu^{+} (E)=0=\nu^{-} (E)$ である。従って、$\mu (E)=0$ の時は常に $\nu^{+} (E)=0=\nu^{-} (E)$ であるので、以下を得る。
$$ \nu^{+} \ll \mu \quad \text{and} \quad \nu^{-} \ll \mu $$
(c) $\implies$ (a)
証明方法は上と同じなので、具体的な説明は省略する。$\mu (E)=0$ としよう。すると、$E$ が $\nu^{+}$null、$\nu^{-}$nullであることから $\nu$-nullである。従って、$\mu (E)=0$ の時は常に $\nu (E)=0$ であり、以下を得る。
$$ \nu \ll \mu $$
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定理2
$\nu \perp \mu$であり、かつ $\nu \ll \mu$ であれば、$\nu=0$ である。言い換えれば、$\nu$ は定数関数 $0$ である。
証明
$E \cup F=X$と$E \cap F=\varnothing$が与えられ、$\nu$-nullの$E$と$\mu$-nullの$F$が存在する。$F$が$\mu$-nullであり、$\nu$が$\mu$に対して絶対連続であるため、$\mu (F)=\nu (F)=0$が成り立つ。今、$A \in \mathcal{E}$としよう。すると、以下が成り立つ。
$$ \nu (A) =\nu (A \cap E) + \nu (A\cap F)=0+0=0,\quad \forall A\in \mathcal{E} $$
従って、$\nu$は定数関数$0$である。
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参照
Gerald B. Folland, Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications (2nd Edition, 1999), p88-89 ↩︎