定常電流とビオ・サバールの法則
定義1
定常電流steady currentとは、量や進行方向が変わらずに絶え間なく続く電荷の流れを指す。
説明
時間によって電流が変わらないため、定常電流によって作られる磁場も時間とともに変わらない。ここで言う「進行方向」とは、一般的に考えるベクトルの方向とは異なる概念だ。曲がった導線を流れても、一方向にだけ続けて流れるならば、進行方向は変わらないということだ。体積電荷密度を$\rho$、体積電流密度を$\mathbf{J}$としよう。そして、これによって生じる電流が定常電流であれば、定義により以下の式が成り立つ。
$$ \dfrac{\partial \rho}{\partial t} = 0 \quad \text{and} \quad \dfrac{\partial \mathbf{J}}{\partial t}=0 $$
したがって、連続方程式により以下の式が成立する。
$$ \nabla \cdot \mathbf{J} = 0 $$
もちろん、定常電流は理論上のもので、実際には存在しないので、定常電流に関する内容は完全に理論的な話である。しかし、物理学の多くの場所で、このような理論は現実とかなり近似する。
公式
定常電流が作る磁場は次の式で計算でき、これをビオ・サバールの法則Biot-Savart lawという。
$$ \mathbf{B}(\mathbf{r})=\dfrac{ \mu_{0}}{4\pi}\int \dfrac{\mathbf{I} \times \crH}{\cR ^2}dl^{\prime}=\dfrac{ \mu_{0}}{4\pi} I \int \dfrac{d \mathbf{l}^{\prime} \times \crH}{\cR ^2} $$
ここで、$\bcR$は分離ベクトル、定数$\mu$は透磁率permeabilityである。$\mu_{0}$は真空中の透磁率である。面電流、体積電流に対するビオ・サバールの法則は表面電流密度と体積電流密度を使って表される。
$$ \begin{align*} \mathbf{B}(\mathbf{r}) =&\ \dfrac{ \mu_{0}}{4\pi}\int \dfrac{\mathbf{K}(\mathbf{r}^{\prime}) \times \crH}{\cR ^2}da^{\prime} \\ \mathbf{B}(\mathbf{r}) =&\ \dfrac{ \mu_{0}}{4\pi}\int \dfrac{\mathbf{J}(\mathbf{r}^{\prime}) \times \crH}{\cR ^2}d\tau^{\prime} \end{align*} $$
例
定常電流$I$が流れる電線から垂直距離が$s$の地点の磁場を求めよ。
$$ \begin{align*} |d\mathbf{l}^{\prime} \times \crH | =&\ |d\mathbf{l}^{\prime}||\crH|\sin \alpha \\ =&\ dl^{\prime} \sin \alpha \\ =&\ dl^{\prime} \sin \left( \theta + \frac{\pi}{2} \right) \\ =&\ dl^{\prime} \cos \theta \end{align*} $$
$l^{\prime}=s\tan \theta$なので、
$$ dl^{\prime}=\dfrac{s}{\cos ^2 \theta}d\theta $$
$s=\cR \cos \theta$なので、
$$ \dfrac{1}{\cR ^2}=\dfrac{\cos ^2 \theta}{s^2} $$
ビオ・サバールの法則に代入して、$\mathbf{B}(\mathbf{r})$の大きさを計算すると
$$ \begin{align*} B =&\ \left| \dfrac{ \mu_{0}}{4\pi} I \int \dfrac{d \mathbf{l}^{\prime} \times \crH}{\cR ^2} \right| \\ =&\ \dfrac{ \mu_{0}}{4\pi} I \int \dfrac{ \left| d \mathbf{l}^{\prime} \times \crH \right| }{\cR ^2} \\ =&\ \dfrac{\mu_{0} I}{4\pi} \int \left( \dfrac{\cos ^2 \theta}{s^2} \right) \left( \dfrac{s}{\cos^2\theta} \right) \cos \theta d\theta \\ =&\ \dfrac{\mu_{0} I}{4\pi s} \int \cos \theta d\theta \end{align*} $$ この時、図$(2)$のような電線の断片に関する場合だったら、積分範囲は$\theta _{1}$から$\theta_2$までである。例は無限に長い電線に関する場合なので、図$(2)$のように、$\theta_{1}=-\dfrac{\pi}{2}$、$\theta_2=\dfrac{\pi}{2}$の状況と同じである。したがって磁場の大きさは $$ \begin{align*} B =&\ \dfrac{\mu_{0} I}{4\pi s} \int_{-\frac{\pi}{2} }^{\frac{\pi}{2}} \cos \theta d\theta \\ =&\ \dfrac{\mu_{0} I}{4\pi s} \left(\sin {\textstyle \frac{\pi}{2}}- \sin {\textstyle \frac{-\pi}{2}} \right) \\ =&\ \dfrac{\mu_{0} I}{2\pi s} \end{align*} $$
方向は右手の法則によって、紙を突き抜ける方向である。右側を円筒座標系の$\hat{\mathbf{z}}$とすると、
$$ \mathbf{B}=\dfrac{\mu_{0} I}{2\pi s} \hat{\boldsymbol{\phi}} $$
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David J. Griffiths, 電磁気学の基礎(Introduction to Electrodynamics, 金甚生 訳) (第4版, 2014), 241-245ページ ↩︎