抽象代数学における体
定義 1
- 環 $(R , + , \cdot)$ が乗法 $\cdot$ に対する単位元 $1 \in R$ を持つとき、$1$ を 単位元unity と呼ぶ。
- 単位元を持つ環 $R$ において乗法に対する逆元が存在する要素 $r \ne 0$ を 単元unit と呼ぶ。
- 単位元を持つ環 $R$ で $0$ 以外のすべての要素が単元であるなら、それを 体division ring と呼ぶ。
- 乗法に対して交換法則が成り立つ体 $R$ を 体field と呼ぶ。
説明
簡単に言うと、体 $(F , + , \cdot )$ とは、加法に対する単位元 $0 \in F$ を除くすべての要素が逆元を持つ 可換環 である。抽象代数として考えると難しいが、解析学で学んだ実数空間 $\mathbb{R}$ を思い浮かべれば、実はこれこそが「代数構造」にふさわしいと見ることができる。
逆元が存在する要素がなぜ「ユニット」と呼ばれるのか
一方、単位元の英語表現であるUnityは受け入れやすいが、逆元が存在する要素をなぜUnitと呼ぶのか納得できない人も多いだろう。一般的に「ユニット」は「単位」と訳され、「ある数量を測るときの基準」としてよく使われるからだ。逆元が存在することと単位は何の関係もなさそうだが、なぜあえて「ユニット」と定義されたのだろうか。これについて興味深い仮説を提案したい。
代数学が発達し始めた初期には、整数に関する研究が盛んだった。実際、我々が整数集合を $\mathbb{Z}$ と書くのもドイツ語の “Zahlring” から「Zahl-」が「数」を意味し、「-ring」はご存じの通り環 と訳されるからである。この他にも、代数学で使用される多くの概念は整数論のセンスから出てきたという主張を受け入れるのはそれほど難しくないだろう。
では 整数環 $\mathbb{Z}$ を考えてみよう。
$\mathbb{Z}$ は $ \cdots , -2 , -1, 0, 1 , 2 ,\cdots$ のように無限に多くの整数を要素として持つ。このとき、ここで乗法に対する単位元は唯一 $1$ だけであり、逆元を持つ要素は $-1$ と $1$ だけである。そして抽象代数を学ぶ程度に数学に親しんでいれば、$-1$ と $1$ が「ユニット」と呼ばれることに違和感を感じないだろう。このような背景から、整数を離れてさまざまな代数構造を検討するうちに、これらを「ユニット」と呼ぶことが適切だったのかもしれない。
$\mathbb{R}$ まで来ると $0$ を除くすべての $r \in \mathbb{R}$ に対して乗法に対する逆元 $\displaystyle {{1} \over {r}} \in \mathbb{R}$ が存在するので、$0$ を除くすべての要素が「ユニット」であり、よく考えてみれば $r$ に何らかの数 $a$ を掛けて希望する数 $x$ を作れ、したがって $r \ne 1$ も単位としての役割を果たさない理由が全くない。そしてその数 $a$ は当然ながら $a = r^{-1}x$ であり、$r^{-1}$ が存在しない限り確信が持てないことである。
一緒に見る
Fraleigh. (2003). A first course in abstract algebra(7th Edition): p173. ↩︎