マクスウェル分布
定理1
気体分子の速度を表す確率変数 $V$ は、以下の確率密度関数で説明される マクスウェル分布maxwell distributionに従う。
$$ f(v) = \dfrac{4}{\sqrt{ \pi}} \left( \dfrac{m}{2 k_{B} T} \right)^{3/2} v^{2} e^{-mv^2 / 2k_{B}T } $$
説明
マクスウェル分布はボルツマン分布から導かれ、マクスウェル-ボルツマン速度分布とも呼ばれる。統計力学という名前が不適切に思えるほど、統計学であまり見かけない分布である。もし関連付けるとすれば、正規分布の歪度や尖度と関係がある。
このマクスウェル分布の導出を通じて、我々は気体分子の運動を確率的に把握し、統計的に理解する。分子一つ一つの運動を微視的に確認することはできないが、巨視的には合致するのである。導出のために、分子の大きさは分子間の距離より十分に小さく、分子間に作用する力は無視できると仮定する。
導出
パート1. 速度の分布
ある気体分子の質量が $m$、速度が $\mathbf{v} := ( v_{x} , v_{y} , v_{z} )$、速さが $v := | \mathbf{v} |$ だとしよう。その場合、運動エネルギーは以下の通りである。
$$ {{1} \over {2}} m v^2 = {{1} \over {2}} m v_{x}^2 + {{1} \over {2}} m v_{y}^2 + {{1} \over {2}} m v_{z}^2 $$
温度が $T$ の系のエネルギーが $\epsilon$ である確率は以下の通りである。
$$ P(\epsilon) \propto e^{ - \epsilon /k_{B} T } $$
それでは、$v_{x}$ 軸方向の運動エネルギーが $\displaystyle E = {{1} \over {2}} m v_{x}^2$ である確率は以下のようになる。
$$ g( E ) \propto e^{-mv_{x}^{2} / 2k_{B}T } \implies g( E ) = C e^{-mv_{x}^{2} / 2k_{B}T } $$
ここで $C$ は定数である。今、$g$ が確率密度関数となるように正規化しよう。つまり、$g$ を全領域で積分した時、$1$ となるようにするのである。
$$ \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} dx= \sqrt{\pi} $$
$v_{x} = \sqrt{\dfrac{2 k_{B} T}{m}} x$ へ置換し、ガウス積分を使うと以下のようになる。
$$ \begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty}g =& C \int_{-\infty}^{\infty} e^{ -m v_{x}^2 / 2 k_{B}T} dv_{x} \\ =& C \int_{-\infty}^{\infty} \sqrt{{2 k_{B} T} \over {m}} e^{ - x^2 } dx \\ =& C \sqrt{\dfrac{2 k_{B} T}{m}} \int_{-\infty}^{\infty} e^{ - x^2 } dx \\ =& C \sqrt{\dfrac{2 k_{B} T}{m}}\cdot \sqrt{\pi} \\ =& C \sqrt{\dfrac{2 \pi k_{B} T }{m}} \\ =& 1 \end{align*} $$
したがって、$C$ は以下の通りである。
$$ C = \sqrt{\dfrac{m}{2 \pi k_{B} T }} $$
このようにして、$g(v_{x})$ は以下のようになる。
$$ g(v_{x} ) = \sqrt{ {m} \over {2 \pi k_{B} T } } e^{ - {{m v_{x}^2 } \over {2 k_{B} T}} } $$
それでは、$(v_{x}, v_{y}, v_{z})$ と $(v_{x} + dv_{x}, v_{y} + dv_{y}, v_{z} + dv_{z})$ の間の速度を持つ気体分子の割合は、以下のようになる。
$$ g(v_{x}) d v_{x} g(v_{y}) d v_{y} g(v_{z}) d v_{z} \propto e^{- {{m (v_{x}^{2} + v_{y}^{2} + v_{z}^{2})} \over {2 k_{B} T}} } d v_{x} d v_{y} d v_{z} = e^{- {{m v^2} \over {2 k_{B} T}} } d v_{x} d v_{y} d v_{z} $$
パート2. 速さの分布
速さの分布の確率密度関数を $f(v)$ とすると、$\displaystyle \int_{0 } ^{\infty} f(v) dv = 1$ でなければならない。気体分子はどの方向にも速さ $v$ で運動できるので、中心が $\mathbb{0}$ で半径が $v$ の球を考えよう。
球の表面積は $4 \pi v^2$ であるため、球の外側の殻の厚さを $dv$ とした場合、以下のように表せる。
$$ e^{- \frac{m v^2}{2 k_{B} T} } d v_{x} d v_{y} d v_{z} = 4 \pi v^2 e^{- \frac{m v^2}{2 k_{B} T} } dv $$
$$ f(v) dv \propto v^2 e^{- \frac{m v^2}{2 k_{B} T} } dv $$
図を含む説明がよく理解できない場合は、単に数学的に考え、ヤコビアンを掛けたと受け入れてもよい。最後に、ガウス積分と部分積分を使って正規化すると、以下を得る。
$$ f(v) = {{4} \over { \sqrt{ \pi } }} \left( {{m} \over {2 k_{B} T}} \right)^{{3} \over {2}} v^2 e^{- \frac{m v^2}{2 k_{B} T} } $$
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Stephen J. Blundell and Katherine M. Blundell, 熱物理学入門(Concepts in Thermal Physics, 李在雨 訳) (第2版, 2014), p63-65 ↩︎