複素空間の位相空間学
概要
複素数の集合$\mathbb{C}$を位相空間として扱うための定義を紹介する。位相空間とは言っても、ほとんどが距離空間での定義を複素集合に特化させたものだ。解析入門を一生懸命勉強したなら、そんなに難しくなく受け入れられる。
定義 1
$\alpha \in \mathbb{C}$で、$\delta > 0$で、$S \subset \mathbb{C}$とする。
集合の開閉
- 以下のような集合を$\alpha$のオープン近傍またはオープンボールという。 $$ B \left( \alpha ; \delta \right) := \left\{ z \in \mathbb{C} : \left| z - \alpha \right| < \delta \right\} $$ アスタリスクasterisk$\ast$が上付き文字としてついている場合は、中心の$\alpha$を除外したものである。例えば$B^{\ast} \left( \alpha ; \delta \right)$は以下のように定義され、空孔ボールと呼ばれる。 $$ B^{\ast} \left( \alpha ; \delta \right) := \left\{ z \in \mathbb{C} : 0 < \left| z - \alpha \right| < \delta \right\} $$
- $\alpha$のオープンボールのどれかが$S$に含まれる場合、$\alpha$を$S$の内点という。 $$ \exist \delta : B \left( \alpha , \delta \right) \subset S $$
- $\alpha$の全ての空孔オープンボールが$S$と互いに素ではない場合、$\alpha$を$S$の集積点という。 $$ \forall \delta : B^{\ast} \left( \alpha , \delta \right) \cap S \ne \emptyset $$
- $S$の全ての点が$S$の内点である場合、$S$は開いていると言い、$S$が全ての集積点を含む場合、閉じていると言う。
有界とコンパクト
- $S \subset \mathbb{C}$の全ての元$z \in S$に対して$\left| z \right| \le M$を満たす正数$M > 0$が存在する場合、$S$はバウンデッドと言う。
- クローズドでバウンデッドならコンパクトと言う。
複素領域
- $S \subset \mathbb{C}$の全ての2点が経路で構成される線分で繋がることができるなら、$S$は**(多角)連結**集合と言う。
- 空集合でなくオープンな連結集合$\mathscr{R} \subset \mathbb{C}$を領域と言い、特に複素空間での領域を意味する場合、複素領域と強調する。
追加定義
上の段落では、特に複素解析だけでなく、数学で普遍的に必要な部分のみを要約した。当然、次のような定義や記号も必要な時がある。
- 以下のような集合を$\alpha$のクローズド近傍またはクローズドボールという。 $$ B \left[ \alpha ; \delta \right] := \left\{ z \in \mathbb{C} : \left| z - \alpha \right| \le \delta \right\} $$
- $\alpha$の全てのオープン近傍が$S$と$S^{c}$の点を含む場合、$\alpha$を境界点という。$\alpha$が内点でも境界点でもない場合、外点と言う。
- $S$の全ての集積点の集合を$S$の閉包と言い、$\overline{S}$のように表す。
- $\mathbb{C} \setminus S$が連結集合なら、連結集合$S$を単純連結と言う。
参照
複素数集合$\mathbb{C}$は体の公理に従うだけでなく、複素数のモジュラス$\left| \cdot \right|$が与えられることによってノルム空間でもあり、距離空間である。したがって、距離空間に既に馴染みがあれば、複素空間として新たに学ぶべきことは何もない。
- 距離空間でのボールと開集合閉集合
- 距離空間での近傍、集積点、開閉
- 距離空間での内部閉包境界
- 距離空間でのコンパクト
- ハイネ・ボレルの定理の証明: 元来、コンパクトを定義するためには、もっと複雑な議論が必要だが、複素解析では、バウンデッドで閉集合ならコンパクトと同等とする定義でも問題ない。
- 位相数学での経路連結性: 実際に定義で紹介された連結性は、経路連結性により近い。経路連結ならば連結であり、位相数学での一般的な連結性の定義を理解するためには、位相的な思考がかなり根付いていなければならないため、その代わりに「線分で繋がれる」という幾何学的な直感を借りたものである。
- 距離空間での連結集合
Osborne (1999). Complex variables and their applications: p10~12. ↩︎