反射と屈折
定義 1
- 環$R$において、$ab = 0$を満たす$0$ではない$a,b \in R$を零因子zero Divisorと呼ぶ。
- 単位元$1 \ne 0$を持つ$D$が零因子を持たない場合、その環を整域integral Domainという。
説明
零因子
$0$ではない要素同士の積が$0$になる例には $$ \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix} $$ や $2 \cdot 3 \equiv 0 \pmod{6}$がある。このように環では、常に計算が便利に行えるわけではないため、注意が必要である。これは、$xy = 0$で、$x \ne 0$である場合、$y = 0$とは言えないということである。
整域
整域は、IDともよく略される。
整域の例としては、単純に整数の集合$\mathbb{Z}$を挙げることができる。もともと整域のIntegralという言葉は、整数Integerから来ているので当然である。整域の良い点は、$0$以外のもので割り算をする際に心配する必要がない点である。整域では、$x y = 0$ならば$x = 0$または$y = 0$であることが保証され、代数構造として大変便利である。
$R$が整域であることは、$R$において乗法に関する消去法cancellation lawが成立することを保証し、零因子を持たない環であることから、体と密接な関係がある。以下の有用な定理を見てみよう。
定理
- [3] $p$が素数ならば$\mathbb{Z}_{p}$は体である。
証明
1
体$F$に対して、$a \ne 0$かつ$ab = 0$ならば $$ \left( {{1} \over {a}} \right) (ab) = \left( {{1} \over {a}} \right) 0 = 0 $$ かつ、同時に $$ \left[ \left( {{1} \over {a}} \right) a \right] b =1 b = b $$ が成り立つ。これは、$ab= 0$ならば、どちらかが必ず$0$でなくてはならないということであり、従って体の元は零因子になることができず、$F$は整域である。
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2
有限整域$D$の元で$0$を除く残りの元を$1, a_{1} , \cdots , a_{n}$としよう。それらに$a \ne 0$を乗じた $$ a, aa_{1} , \cdots , aa_{n} $$ を考えると、$D$が整域であるため、これらの中に$0$は存在しない。
また、整域では消去法が成立するため、$aa_{i} = aa_{j}$ならば$a_{i} = a_{j}$であることがわかる。つまり $$ a_{i} \ne a_{j} \implies aa_{i} \ne aa_{j} $$ となり、 $$ \left\{ 1, a_{1} , \cdots , a_{n} \right\} = \left\{ a, aa_{1} , \cdots , aa_{n} \right\} $$ を得る。従って、$a \ne 0$に対しては常に$ab=1$を満たす$b \in \left\{ 1, a_{1} , \cdots , a_{n} \right\}$が存在することがわかる。$b$は$a$の乗法に関する逆元であるため、$D$は体である。
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[3]
自明のように、$\mathbb{Z}_{p} = \left\{ 0 , 1, \cdots , p-1 \right\}$は有限集合である。しかし、$p$が素数であるため、 $$ ab \equiv 0 \pmod{p} $$ を満たす$0$ではない$a,b \in \mathbb{Z}_{p}$は存在しないため、$\mathbb{Z}_{p}$は整域であり、定理2により体である。
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4
体$F$において、$0^2 = 0$かつ$1^2 = 1$であるため、$0$と$1$は$F$の冪等元である。$0$でも$1$でもない冪等元$a \in F$が存在すると仮定すると、$a^2 = a$であるため、$a( a-1) = 0$でなければならない。しかし、定理1により、$F$は整域であり、零因子を持たないため、この仮定は矛盾している。
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参照
Fraleigh. (2003). A first course in abstract algebra(7th Edition): p178~179. ↩︎