物理学における温度の定義
定義1 2
エネルギーが$E$の系があるとしよう。$E$に関する微視状態の数を$\Omega (E) = \Omega$とするとき、
$$ \dfrac{1}{k_{B} T} := \dfrac{d \ln ( \Omega )}{d E } $$
$T$を系の温度temperatureと定義する。(ただし、$k_{B}$はボルツマン定数)
微視状態と巨視状態
統計力学で、ある系の巨視状態macrostateと微視状態microstateは、例えば次のような概念だ。箱の中にコイン四枚が入っているとする。この箱を強く振って開けると、表と裏がランダムに決まる。この時のコインの状態を表を白色、裏を濃灰色で表現すると、次のようになる。
表の数だけを見るなら$0$個から$4$個までの合計$5$通りがあり、これを巨視状態の数 $S$という。一方、各コインが表か裏かまで数えると、知られているように$2^4=16$通りあり、これを微視状態の数 $\Omega$という。
当然ながら、微視状態の数$\Omega$が大きければ、そのに対応する巨視状態が観測される確率が高い。上の状況で、コイン$n$個の中で$k$個が表である微視状態の数を$\Omega (k, n-k)$とすると、微視状態の数が最も多いのは$\Omega (2,2) = 6$で、したがって、表と裏がそれぞれ二枚ずつの場合が観測されやすい。
導出
温度の定義は、相互作用する二つの系の巨視状態を探す過程で自然に導かれる。以下のような閉じた系$X$を考えよう。
$X$は$A$と$B$に分かれている。$A$、$B$内部のエネルギーをそれぞれ$E_{A}$、$E_{B}$としよう。上のコインの例で言うと、$A$と$B$は特定のコインの集まりで、$E_{A}$と$E_{B}$はそれぞれ表のコインの数だ。
すべての微視状態が起こりうる確率が同じで、$A$と$B$が十分に相互作用した(または時間が十分に流れた)と仮定して、二つの系が熱平衡状態にあるとする。全系のエネルギーは$E_{X} = E_{A} + E_{B}$と同じである。全系$X$の微視状態の数は、$A$が可能な微視状態の数$\Omega (E_{A})$と$B$が可能な微視状態の数$\Omega (E_{B})$の積で表される。
$$ \begin{equation} \Omega_{X} (E_{X}) = \Omega_{A} (E_{A}) \Omega_{B} (E_{B}) \end{equation} $$
すると、熱平衡状態での巨視状態は、上の式の値が最も大きい時と自然に受け入れられる。実際、熱平衡時の巨視状態で可能な微視状態の数は、他の場合より圧倒的に多いと言われている。微視状態の数$\Omega$を正規分布と考えれば、$(1)$を微分して$0$になる点が最大値であることを自然に受け入れられるだろう。
しかし、実際には、粒子のエネルギーは連続した値ではなく量子化されている。したがって、系全体のエネルギー$E_{X}$も離散的な値を持つ。しかし、熱物理学の場合、扱う系の粒子の数が非常に多いので、可能な$E_{X}$の値も非常に多い。したがって、$E_{X}$、$E_{A}$、$E_{B}$を連続した値を持つ変数と考えよう。
再び巨視状態を探すことに戻って、熱平衡時の巨視状態(エネルギー)を$\overline{E} = \overline{E}_{A} + \overline{E}_{B}$としよう。すると、$(1)$を$E_{A}$で微分して$E_{A}=\overline{E}_{A}$を代入すると、$0$になるということだ。
$$ \left. \dfrac{d( \Omega_{A} (E_{A} ) \Omega_{B} (E_{B}) )}{dE_{A}} \right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} = 0 $$
上の式を計算すると、積の微分法によって次のようになる。
$$ \Omega_{B} (E_{B}) \left. \dfrac{d \Omega_{A} (E_{A} )}{d E_{A}} \right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} + \Omega_{A} (E_{A}) \left. \dfrac{d \Omega_{B} (E_{B} )}{d E_{B}} {{d E_{B} } \over {d E_{A} }} \right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} = 0 $$
ここで、$A$と$B$の間でどのようにエネルギーが移動しても、全体のエネルギー$E_{X} = E_{A} + E_{B}$は変わらない定数であるため、次が成立する。
$$ d E_{A} = - d E_{B} \implies \dfrac{d E_{B}}{d E_{A} } = -1 $$
これを上の式に代入すると、次の式を得る。
$$ \begin{align*} && \Omega_{B} \left. \dfrac{ d \Omega_{A} }{d E_{A}}\right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} - \left. \Omega_{A} \dfrac{ d \Omega_{B} }{d E_{B}}\right|_{E_{B}=\overline{E}_{B}} =& 0 \\ \implies && \dfrac{1}{ \Omega_{A} } \left. \dfrac{ d \Omega_{A} }{d E_{A}}\right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} - \dfrac{1}{\Omega_{B} } \left. \dfrac{ d \Omega_{B} }{d E_{B}} \right|_{E_{B}=\overline{E}_{B}} =& 0 \\ \implies && \dfrac{1}{ \Omega_{A} } \left. \dfrac{ d \Omega_{A} }{d E_{A}} \right|_{E_{A}=\overline{E}_{A}} =& \dfrac{1}{\Omega_{B} } \left. \dfrac{ d \Omega_{B} }{d E_{B}} \right|_{E_{B}=\overline{E}_{B}} \\ \implies && \dfrac{ d \ln \Omega_{A} }{d E_{A}} \left(\overline{E}_{A}\right) =& \dfrac{ d \ln \Omega_{B} }{d E_{B}}\left(\overline{E}_{B}\right) \end{align*} $$
最後の行は、対数関数の微分法と連鎖律により成立する。ここで、上の式は熱平衡の条件で、左辺は系$A$の変数だけで構成された値で、右辺は系$B$の変数だけで構成された値だ。熱平衡状態で両側がそれぞれの状態だけで同じ値を持つので、この値で温度を定義すれば妥当だろう。すると、$A$と$B$の温度をそれぞれ$T_{A}$と$T_{B}$と定義できる。
$$ \begin{align*} \dfrac{1}{k_{B} T_{A} } &:= \dfrac{ d \ln \Omega _{A} }{d E_{A}} \left(\overline{E}_{A}\right) \\ \dfrac{1}{k_{B} T_{B} } &:= \dfrac{ d \ln \Omega _{B} }{d E_{B}} \left(\overline{E}_{B}\right) \end{align*} $$
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