フーリエ級数を用いた偏微分方程式の解法
定義
ヒルベルト空間の関数 $f \in \mathcal{L}^{2} [- \pi , \pi] $ について $\displaystyle a_{k} = {{1} \over {\pi}} \int_{- \pi}^{\pi} f(x) \cos kx dx$ そして $\displaystyle b_{k} = {{1} \over {\pi}} \int_{- \pi}^{\pi} f(x) \sin kx dx$ について
$$ f(x) \sim {{a_{0}} \over {2}} + \sum_{k=1}^{\infty} \left( a_{k} \cos kx + b_{x} \sin kx \right) $$
を $f$ のフーリエ級数fourier seriesと言う。
説明
テイラー級数がある関数を多項式で近似するのと違って、フーリエ級数は三角多項式で近似する。このように複雑な形をしたフーリエ級数は、従来のテイラー級数ではアプローチが難しい様々な関数に適用できるため、便利だ。しかし、フーリエ級数が収束するかについての保証はなく、収束しても正確に$f$ に収束するかは別の問題だ。学部レベルの偏微分方程式の解析のため、このような問題はいったん置いておくが、この欠陥については知っておく必要がある。
便宜上、これからは$=$を$\sim$の代わりに使用することにする。なぜフーリエ級数をそのような形で定義するのかを見てみよう。$\mathcal{L}^2$ が$\mathcal{L}^{p}$ から $p=2$ の場合であるので、$f,g : [-\pi, \pi] \to \mathbb{R}$ に対して次のように内積とノルムを定義できる。
$$ \left< f, g \right> := {{1} \over{\pi}} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) g(x) dx \left\| f \right\| : = \left< f, f \right> := \sqrt{ {{1} \over{\pi}} \int_{-\pi}^{\pi} \left| f(x) \right| ^2 dx } $$
偶関数$\sin k x$ と奇関数$\cos k x$ は $k \ne l$ に対して $\displaystyle \left< \cos kx , \cos lx \right> = \left< \sin kx , \cos lx \right> = 0$ だ。もちろん$k = l$ に対しても $\displaystyle \left< \cos lx , \sin lx \right> = \left< \sin lx , \cos lx \right> = 0$ だ。三角関数同士の内積で$0$ にならない場合は$\displaystyle \left< \cos lx , \cos lx \right> \ne 0 \ne \left< \sin lx , \sin lx \right>$ だけだ。
以上の事実を利用して $\left< f, \cos lx \right> f$ を計算してみると、内積の線形性により
$$ \left< f, \cos lx \right> = {{a_{0}} \over {2}} \left< 1 , \cos lx \right> + \sum_{k=1}^{\infty} \left( a_{k} \left< \cos kx , \cos lx \right> + b_{x} \left< \sin kx , \cos lx \right> \right) = a_{l} $$
を得る。同様に$\left< f , \sin lx \right> = b_{l}$ を得ることができ、
$$ \left< f , 1 \right> = {{a_{0}} \over {2}} \left< 1, 1 \right> = {{a_{0}} \over {2}} \left\| 1 \right\| ^2 = {{a_{0}} \over {2}} $$
だ。
$f$ を三角多項式で近似することは、$f$ を三角関数のベクトル空間へ射影することだ。線形代数の観点から各項について考えると、その形状は$\left< f(x) , \cos nx \right> \cos nx$ または $\left< f(x) , \sin nx \right> \sin nx$ であり、関数 $f$ を基底 $\left\{ \cos nx , \sin nx \ | \ n \in \mathbb{N} \right\}$ へ射影することと見なせる。
奇関数と偶関数の性質を利用することで、これだけではなく、以下の公式を通じて計算量を大幅に削減できる。
$f \in \mathcal{L}^{2} [-\pi , \pi ]$ が奇関数の場合、$\displaystyle a_{k} = {{2} \over {\pi}} \int_{0} \pi f(x) \cos kx dx$ に対して
$$ f(x) \sim {{a_{0 } } \over {2 }} + \sum_{k=1}^{\infty} a_{k} \cos kx $$
$f \in \mathcal{L}^{2} [-\pi , \pi ]$ が偶関数の場合、$\displaystyle b_{k} = {{2} \over {\pi}} \int_{0} \pi f(x) \sin kx dx$ に対して
$$ f(x) \sim \sum_{k=1}^{\infty} b_{k} \sin kx $$
一方、$f,g : [-\pi, \pi] \to \mathbb{C}$ に対して次のような定義を導入すると、複素数への一般化が可能だ。
$$ \left< f, g \right> := {{1} \over{2 \pi}} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \overline{ g(x) } dx $$
$$ \left\| f \right\| : = \left< f, f \right> := \sqrt{ {{1} \over{2 \pi}} \int_{-\pi}^{\pi} \left| f(x) \right| ^2 dx } $$
$$ f(x) \sim \sum_{k \in \mathbb{Z}} c_{k} e^{ikx} = \cdots +c_{-2}e^{-i 2 x } + c_{-1}e^{-i x } + c_{0} +c_{1}e^{i x } + c_{2}e^{i 2 x } + \cdots $$
$$ c_{k} = \left<f , e^{ikx} \right> = {{1} \over {2 \pi}} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) e^{-ikx} dx $$
オイラーの公式から、$\displaystyle \cos kx = {{e^{ikx} + e^{-ikx} } \over {2}}$ そして $\displaystyle \sin kx = {{e^{ikx} - e^{-ikx} } \over {2i}}$ であるため、
$$ \begin{align*} c_{k} + c_{-k} =& {{1 } \over {2 \pi }} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \left(e^{ikx} + e^{-ikx} \right) dx \\ =& {{1 } \over { 2 \pi }} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cdot 2 \cos kx dx \\ =& {{1 } \over { \pi }} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cos kx dx \\ =& a_{k} \end{align*} $$
同様に$b_{k} = i (c_{k} - c_{-k})$ を得ることができる。
したがって、一見標準化定数が変わったように見えるが、実際は $f,g : [-\pi, \pi] \to \mathbb{R}$ をきちんとカバーしていることがわかる。ご覧の通り、これらの技術を少なくとも大まかに理解するためには、線形代数学、複素解析学、実解析学などの背景知識が必要だ。