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エルミート行列の固有値対角化:スペクトル理論の証明 📂行列代数

エルミート行列の固有値対角化:スペクトル理論の証明

定理

可逆行列 $A \in \mathbb{C}^{m \times m}$ の 固有値 $\lambda_{k}$ で構成した 対角行列を $\Lambda : = \text{diag} ( \lambda_{1} , \cdots , \lambda_{m} )$、その固有値に対応する正規直交固有ベクトル $\mathbf{q}_{k}$ で構成した 直交行列を $Q$ とする。

[1] スペクトル理論

$A$ が 正規行列であるための必要十分条件は $A$ が ユニタリ対角化可能であることである。 $$ A A^{\ast} = A^{\ast} A \iff A = Q \Lambda Q^{\ast} $$

[2] エルミート行列の場合

もし $A$ が エルミート行列であれば、ユニタリ対角化可能である: $$ A = A^{\ast} \implies A = Q \Lambda Q^{\ast} $$ さらに、$\Lambda$ の対角成分はすべて実数である。


説明

可逆行列を分解できるということ自体は 固有値対角化の過程で確認された。スペクトル理論はその逆が成立する条件を提示しており、非常に重要であるといえる。すぐに応用できる分野としては 統計学 では、 主成分分析の理論的基盤となる。

一方、スペクトル理論でいう $A = Q \Lambda Q^{\ast}$ を次のように 固有対 $\left\{ \left( \lambda_{k} , e_{k} \right) \right\}_{k=1}^{m}$ の級数形で表したものを スペクトル分解spectral decompositionという。 $$ A = \sum_{k=1}^{m} \lambda_{k} e_{k} e_{k}^{\ast} $$

証明

正方行列 $A$ は シュア分解可能なので、次を満たす ユニタリ行列 $Q$ と 上三角行列 $T$ が存在する。 $$ A = Q T Q^{\ast} $$ 以下の証明でこのノーテーションを共有する。$O$ は 零行列を表す。

[1] 1

$A$ が正規行列であることは、$T$ が正規行列であることと同値である: $$ \begin{align*} & A A^{\ast} = A^{\ast} A \\ \iff & Q T Q^{\ast} \left( Q T Q^{\ast} \right)^{\ast} = \left( Q T Q^{\ast} \right)^{\ast} Q T Q^{\ast} \\ \iff & Q T T^{\ast} Q^{\ast} = Q^{\ast} T^{\ast} T Q \\ \iff & Q \left[ T T^{\ast} - T^{\ast} T \right] Q^{\ast} = O \\ \iff & T T^{\ast} = T^{\ast} T \end{align*} $$

三角正規行列の同値条件: $T$ が正方行列であるとする。 三角行列 $T$ が正規行列であることの必要十分条件は、$T$ が 対角行列であることである: $$ T T^{\ast} = T^{\ast} T \iff \left( T \right)_{ij} = 0 , \forall i \ne j $$

一方、上三角行列 $T$ が正規行列であることは、$T$ が対角行列であることと同値であり、これは次のように要約できる。 $$ \begin{align*} & A A^{\ast} = A^{\ast} A \\ \iff & T T^{\ast} = T^{\ast} T \\ \iff & A = Q T Q^{\ast} \end{align*} $$ これで、$T = \Lambda := \diag \left( \lambda_{1} , \cdots , \lambda_{m} \right)$ が $A$ の固有値で構成された対角行列であることを示せばよい。$A = Q \Lambda Q^{\ast}$ の両辺の右に $Q$ を掛けると $$ A Q = Q \Lambda $$ となり、ここで $Q:= \begin{bmatrix} \mathbf{q}_{1} & \cdots & \mathbf{q}_{m} \end{bmatrix}$ は ユニタリ行列なので $k = 1 , \cdots , m$ に対し $A \mathbf{q}_{k} = \lambda_{k} \mathbf{q}_{k}$ である。したがって $\lambda_{k}$ は $A$ の固有値となる。

[2] 2

$A^{\ast} = Q T^{\ast} Q^{\ast}$ であり $A^{\ast} = A$ なので $Q T Q^{\ast} = Q T^{\ast} Q^{\ast}$、即ち $T = T^{\ast}$ である。これを満たす上三角行列は 対角行列であり、上述の方法により $T = \Lambda$ が $A$ の固有値で構成された対角行列であることを示すことができる。特にこの場合、$A$ は エルミート行列なのでその固有値はすべて実数である。


  1. https://www.math.drexel.edu/~foucart/TeachingFiles/F12/M504Lect2.pdf ↩︎

  2. 김상동, 김필수, 신병춘, 이용훈. (2012). 수치행렬해석: p106. ↩︎