線形変換の対角化可能性と固有値の重複度、固有空間との関係
定理1
$T : V \to V$を有限次元ベクトル空間$V$上の線形変換とする。$T$の特性多項式が分解され、$\lambda_{1}, \lambda_{2}, \dots, \lambda_{k}$が$T$の異なる固有値だとする。すると、
$T$が対角化可能なのは、すべての$i$に対して$\lambda_{i}$の重複度と固有空間の次元$\dim(E_{\lambda_{i}})$が同じであることが同値である。
$$ T \text{ is diagobalizable. } \iff \text{multiplicity of } \lambda_{i} = \dim(E_{\lambda_{i}}),\quad \forall i $$もし$T$が対角化可能で、$\beta_{i}$が$E_{\lambda_{i}}$の順序基底なら、$\beta = \beta_{1} \cup \cdots \cup \beta_{k}$は$T$の固有ベクトルを含む$V$の順序基底である。
$T$が対角化可能であるのは、$V$が$T$の固有空間の直和であることと同値である。 $$ T \text{ is diagobalizable. } \iff V = E_{\lambda_{1}} \oplus \cdots \oplus E_{\lambda_{k}} $$
証明
1.
$m_{i}$を$\lambda_{i}$の重複度とする。$d_{i} = \dim(E_{\lambda_{i}})$、$n = \dim(V)$とする。
$(\Longrightarrow)$
$T$が対角化可能だと仮定する。これは$T$の固有ベクトルで構成された$V$の基底が存在することと同じだ。だから$\beta$を$T$の固有ベクトルで構成された$V$の基底としよう。各$i$に対して、$\beta_{i} = \beta \cap E_{\lambda_{i}}$とする。つまり、$\beta_{i}$は$\beta$に属する固有値$\lambda_{i}$に対応する固有ベクトルの集まりだ。また、$n_{i} = \left| \beta_{i} \right|$とする。すると、$\beta_{i}$が$E_{\lambda_{i}}$の線形独立な部分集合なので、$n_{i} \le d_{i}$が成り立つ。また、固有値の代数的重複度は幾何的重複度以上であるから、$d_{i} \le m_{i}$が成り立つ。$n = \left| \beta \right|$より、すべての$i$に対して$n_{i}$を足せば$n$となり、重複度の定義により、すべての$i$に対して$m_{i}$を足せば$n$となる。だから、 $$ n = \sum\limits_{i=1}^{k}n_{i} \le \sum\limits_{i=1}^{k}d_{i} \le \sum\limits_{i=1}^{k}m_{i} = n $$ $$ \implies \sum\limits_{i=1}^{k}(m_{i} - d_{i}) = 0 $$ しかし、$m_{i} - d_{i} \ge 0$だから、すべての$i$に対して$m_{i} = d_{i}$が成り立つ。
$(\Longleftarrow)$
すべての$i$に対して$m_{i} = d_{i}$だと仮定する。$\beta_{i}$を$E_{\lambda_{i}}$の順序基底とする。そして、$\beta = \beta_{1} \cup \cdots \cup \beta_{k}$とする。すると、異なる固有空間の線形独立な集合の合併も線形独立であるから、$\beta$も線形独立だ。また、仮定により$\sum\limits_{i=1}^{k} d_{i} = \sum\limits_{i=1}^{k} m_{i} = n$だから、$\beta$は$n$個の線形独立な固有ベクトルを含む。だから、$\beta$は$V$の順序基底であり、$T$は対角化可能だ。
■
2.
1.の$(\Longleftarrow)$の証明過程で既に証明された。
■
3.
$\lambda_{1}, \dots, \lambda_{k}$を$T$の異なる固有値とする。
$(\Longrightarrow)$
$T$が対角化可能だと仮定する。$\gamma_{i}$を固有空間$E_{\lambda_{i}}$の順序基底とする。すると、2.により$\gamma_{1} \cup \cdots \cup \gamma_{k}$は$V$の順序基底だ。
$W_{1}, W_{2}, \dots, W_{k}$を有限次元ベクトル空間$V$の部分空間とする。以下の命題はすべて同値である。
- $V = W_{1} \oplus W_{2} \oplus \cdots \oplus W_{k}$
- $\gamma_{i}$が$W_{i}$の順序基底であれば、$\gamma_{1} \cup \cdots \cup \gamma_{k}$が$V$の順序基底である。
- $\gamma_{1} \cup \cdots \cup \gamma_{k}$が$V$の順序基底になるような$W_{i}$の順序基底$\gamma_{i}$が存在する。 これにより上記の定理により$V = E_{\lambda_{1}} \oplus \cdots \oplus E_{\lambda_{k}}$が成り立つ。
$(\Longleftarrow)$
$V = E_{\lambda_{1}} \oplus \cdots \oplus E_{\lambda_{k}}$と仮定する。$\gamma_{i}$を$E_{\lambda_{i}}$の順序基底とする。すると、直和の性質により$\gamma_{1} \cup \cdots \cup \gamma_{k}$が$V$の順序基底になる。これは固有ベクトルで構成された基底なので、$T$は対角化可能である。
■
Stephen H. Friedberg, Linear Algebra (4th Edition, 2002), p268, ↩︎