ルベーグ積分
📂測度論ルベーグ積分
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リーマン積分の一般化を考える前に、単純関数simple functionというものを定義する必要がある。
関数値が非負で、ϕ:R→R の値域が有限集合 {a1,a2,⋯,an} であるとし、Ai=ϕ−1({ai})∈M を満たすとき、ϕ を単純関数と呼ぶ。単純関数は次の性質を持つ。
- (i): i=j ならAi∩Aj=∅
- (ii): k=1⨆nAk=R
- (iii): ϕ(x)=k=1∑nak1Ak(x) は測度可能関数である。
ここで、1A は指示関数である。
単純関数は、その定義より扱いやすい3つの要素で構成されている。第一に、関数値が非負であるため符号を考える必要がなく、第二に有限であるため自由に足し引きができ、第三に測度可能である。数学の様々な分野で単純simpleという言葉は多様に使われるが、少なくとも実解析においては「複雑」の反対と考えてよい。これだけ扱いやすく便利な単純関数を定義すると、すぐにリーマン積分をカバーする新しい積分を考えることができる。
定義と基本性質
単純関数のルベーグ積分
ϕ が単純関数で E∈M としたとき、次を単純関数 ϕ のルベーグ積分という。
∫Eϕdm:=k=1∑nakm(Ak∩E)
単純関数のルベーグ積分は次の性質を持つ。
- [1]: 全ての a>0 に対して ∫Eaϕdm=a∫Eϕdm
- [2]: 二つの単純関数 ϕ,ψ に対して ϕ≤ψ なら ∫Eϕdm≤∫Eψdm
- [3]: A,B∈M に対して A∩B=∅ なら ∫A∪Bϕdm=∫Aϕdm+∫Bϕdm
ここで、m はルベーグ測度である。単純関数という条件は非常に強力で特殊であるため、様々な場面で使うことができない。これに区分求積法のアイデアを加えると、ある程度満足のいく「ルベーグ積分」が完成する。
測度可能関数のルベーグ積分
ϕ が単純関数であるとき、関数値が非負な測度可能関数 f と E∈M に対して、次を測度可能関数 f のルベーグ積分lebesgue Integralという。
∫Efdm:=sup{∫Eϕdm 0≤ϕ≤f}
測度可能関数のルベーグ積分は次の性質を持つ。
- [1]': 全ての r≥0 に対して ∫Erfdm=r∫Efdm
- [2]': 二つの測度可能関数 f,g に対して f≤g なら ∫Efdm≤∫Egdm
- [3]': A,B∈M に対して A∩B=∅ なら ∫A∪Bfdm=∫Afdm+∫Bfdm
- [4]': A,B∈M に対して A⊂B なら ∫Afdm≤∫Bfdm
- [5]': N∈N なら ∫Nfdm=0
- [6]': m(E)Einff≤∫Efdm≤m(E)Esupf
これらの基本性質の他に、次のように広く使われる定理を紹介する。
定理
測度空間 (X,E) の測度可能関数 f≥0 と全ての測度可能集合 A∈E に対して
∫Afdm=0⟺f=0 a.e.
ここで、a.e. はほぼ至る所を意味する。
証明
(⟹)
E:=f−1(0,∞) に対して m(E)=0 なら f はほぼ至る所 f=0 である。証明のために En:=f−1[n1,∞) とおくと E=n=1⋃∞En であり、n→∞limEn=E が成り立つ。ここで単純関数 ϕn:=n11En≤f を考えると
n1m(En)=∫Aϕndm≤∫Afdm=0
ゆえに
n1m(En)≤0
すなわち、全ての n∈N に対して m(En)=0 である。
[7]: En∈M, En⊂En+1⟹m(n=1⋃∞En)=n→∞limm(En)
一方、En⊂En+1 であるため次が成り立つ。
m(n=1⋃∞En)=n→∞limm(En)=m(E)=0
(⟸)
f がほぼ至る所 f=0 であり、単純関数 ϕ が 0≤ϕ≤f を満たすため、ϕ もまたほぼ至る所 ϕ=0 である。したがって ∫Afdm=0 である。
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