微分包含の定義
定義 1
微分包含式
多価写像、または集合値写像multivalued mapping $F : \mathbb{R}^{n} \to \mathbb{R}^{n}$ において、$x \in \mathbb{R}^{n}$ での微分 $\dot{x} = dx/dt$ が集合 $F(x)$ の要素の一つであることを示す式を 微分包含式differential inclusionsという。 $$ \dot{x} \in F(x) $$
フィリポフの微分包含式
$f : \mathbb{R}^{n} \to \mathbb{R}^{n}$ が有界な関数とするとき、初期時刻 $t_{0} \in \mathbb{R}$ と初期点 $x_{0} \in \mathbb{R}^{n}$ に対して次のように定義される微分包含式を フィリポフの微分包含式Filippov differential inclusions という。 $$ \begin{align*} \dot{x} (t) & \in F(x) \\ x \left( t_{0} \right) & = x_{0} \\ F(X) & = \bigcap_{\varepsilon > 0} \overline{\operatorname{conv} \left\{ f \left( B \left( x ; \varepsilon \right) \right) \right\} } \end{align*} $$ ここで、$B \left( x ; \varepsilon \right)$ は開球、$\operatorname{conv} X$ は $X$ の凸包、$\overline{X}$ は $X$ の閉包である。
説明
微分包含式は、特に力学系の文脈においては、各$x \in \mathbb{R}^{n}$ ごとに単一のベクトルとなりベクトル場にならないノンスムーズシステムの一般的な形と見なすことができる、常微分方程式の一般化である。
解の存在性
フィリポフの定理: 全ての初期値$x \left( t_{0} \right) = x_{0}$ に対して、フィリポフの微分包含式は解を持つ。
フィリポフの微分包含式に対する解の存在性は既に知られている。2 この定理は、全てのノンスムーズ微分方程式が解を必ず持つわけではないという点で重要である。例えば、符号関数 $\sign$ と $a \in (0,1)$ とすると、次の微分方程式は初期条件$x_{0} = 0$ に対して解が存在しない。 $$ \begin{align*} \dot{x} (t) & = a - \sign \left( x (t) \right) \\ x \left( t_{0} \right) & = x_{0} \end{align*} $$
Braun. (2021). (In-)Stability of Differential Inclusions_ Notions, Equivalences, and Lyapunov-like Characterizations: p7. ↩︎
http://tripop.inrialpes.fr/people/acary/Teaching/Ensimag/Lecture3_2020.pdf p45. ↩︎