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線形独立と線形従属 📂線形代数

線形独立と線形従属

定義1

$S = \left\{ \mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r} \right\}$をベクター空間$V$の空集合ではない部分集合としよう。定数$k_{1}, k_{2}, \dots, k_{r}$に対して、次の方程式

$$ k_{1} \mathbf{v}_{1} + k_{2} \mathbf{v}_{2} + \dots + k_{r} \mathbf{v}_{r} = \mathbf{0} $$

は少なくとも一つの解

$$ k_{1} = 0,\ k_{2} = 0,\ \dots,\ k_{r} = 0 $$

を持つ。これを自明解という。自明解だけが唯一の解である場合、ベクター$\mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r}$は線形独立と呼ばれる。自明解ではない解が少なくとも一つ存在する場合は、線形従属と言う。

説明

自明解とは、一見して分かる解で、そのためあまり価値がないとされる。なぜなら上記の定義の内容と同様に、$0$の場合が多いからだ。

この定義から次の定理がすぐに導き出される。

$S = \left\{ \mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r} \right\}$をベクター空間$V$の空集合ではない部分集合としよう。$S$のどのベクターも他のベクターの線形組み合わせで表すことができない場合、線形独立だとされる。逆に、他のベクターの線形組み合わせで表せるベクターが少なくとも一つ存在する場合は、線形従属だとされる。

この定理の内容を考えると、「独立」と「従属」の命名がピンとくるだろう。教科書によっては、定義と定理が反対になっているものもある。

興味深いことに、脚注の参考文献「Elementary Linear Algebra」は、翻訳版がこの文章と同じように定義されていて、原著は反対に定義されている。個人的には、この文章のように定義する方がクリーンだと思う。それは、反対に定義する場合、要素が一つの集合に対して独立/従属を別途定義する必要があるからだ。定理の証明は下で紹介する。

もう少しかんたんに説明すると、異なる二つのベクターがある時、一つのベクターを増やしたり減らしたりしても、もう一つのベクターと同じにすることができない場合、それは独立だとされる。例えば、$(1,0)$と$(0,1)$は、どんな定数を乗じても、つまり増やしたり減らしたりしても、互いに同じにすることができない。定義に合わせて書き直すと、

$$ k_{1} (1,0) + k_{2} (0,1) = \mathbf{0} $$

二番目の項を移項すると、

$$ k_{1}(1,0) = - k_{2}(0,1) $$

再整理すると、

$$ (k_{1}, 0) = ( 0 , - k_{2}) $$

となるため、上記の式を満たす解は$k_{1} = k_{2} = 0$だけであるため、$(1,0)$、$(0,1)$は線形独立である。これは定理として証明することができる内容である。

定理

(a) 零ベクターを含む有限集合は線形従属である。

(b) 一つのベクター$\mathbf{v}$が線形独立であるための必要十分条件は$\mathbf{v} \ne \mathbf{0}$である。

(c) 異なる二つのベクターが線形独立であるための必要十分条件は、一つのベクターが他のベクターの定数倍で表すことができないことである。

(d) $S=\left\{ \mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r} \right\}$を二つ以上のベクターを持つ集合としよう。$S$が線形独立であるための必要十分条件は、$S$のどのベクターも他のベクターの線形組み合わせで表すことができないことである。

(e) $T \subset S$としよう。$S$が線形独立であれば、$T$も線形独立である。

(e') $T \subset S$としよう。$T$が線形従属であれば、$S$も線形従属である。

証明

(a)

$S=\left\{ \mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r}, \mathbf{0} \right\}$としよう。すると次の式が成り立つ。

$$ 0 \mathbf{v}_{1} + 0 \mathbf{v}_{2} + \dots + 0 \mathbf{v}_{r} + 1 \mathbf{0} = \mathbf{0} $$

したがって、定義により$S$は線形従属である。

(b)

**(a)**を要素が一つの集合に適用すると成立する。

(c)

$(\Longrightarrow)$

$\mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}$が線形独立と仮定しよう。すると、

$$ k_{1} \mathbf{v}_{1} + k_{2} \mathbf{v}_{2} = \mathbf{0} $$

この式を満たす解は$k_{1}=k_{2}=0$だけであるため、$\mathbf{v}_{1} = -\frac{k_{2}}{k_{1}}\mathbf{v}_{2} = -k\mathbf{v}_{2}$を満たす定数$k$は存在しない。

$(\Longleftarrow)$

$\mathbf{v}_{1}$が$\mathbf{v}_{2}$の定数倍で表されないと仮定しよう。つまり、次の方程式

$$ \mathbf{v}_{1} = k_{2}\mathbf{v} $$

を満たす$k_{2}$が存在しないとしよう。すると、

$$ k_{1} \mathbf{v}_{1} + k_{2} \mathbf{v}_{2} = \mathbf{0} $$

この式を満たす解は自明解だけであるため、$\mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}$は線形独立である。

(d)

$(\Longrightarrow)$

$S$が線形独立と仮定しよう。

$$ k_{1} \mathbf{v}_{1} + k_{2} \mathbf{v}_{2} + \dots + k_{r} \mathbf{v}_{r} = \mathbf{0} $$

この式を満たす解は$k_{1}=k_{2}=\cdots=k_{r}=0$だけであり、

$$ \mathbf{v}_{1} = -\frac{k_{2}}{k_{1}}\mathbf{v}_{2} - \cdots - \frac{k_{r}}{k_{1}}\mathbf{v}_{r} $$

この式を満たす定数$\frac{k_{2}}{k_{1}}, \dots, \frac{k_{r}}{k_{1}}$は存在しない。これはすべての$\mathbf{v}_{i}$に当てはまるため、どのベクターも他のベクターの線形組み合わせで表すことができない。

$(\Longleftarrow)$

どのベクターも他のベクターの線形組み合わせで表すことができないと仮定しよう。つまり、次の方程式

$$ \mathbf{v}_{1} = k_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots + k_{r}\mathbf{v}_{r} $$

を満たす$k_{2}, \dots, k_{r}$が存在しないとしよう。すると、

$$ k_{1}\mathbf{v}_{1} + k_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots + k_{r}\mathbf{v}_{r} = \mathbf{0} $$

この式を満たす解は自明解だけであるため、$S$は線形独立である。

(e)

二つの集合$T$、$S$が次のようであるとしよう。

$$ T = \left\{ \mathbf{v}_{1},\ \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r} \right\},\quad S = \left\{ \mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2}, \dots, \mathbf{v}_{r}, \mathbf{v}_{r+1}, \dots, \mathbf{v}_{n} \right\} $$

$T$は$S$の部分集合である。現在、$S$が線形独立と仮定しよう。すると、

$$ c_{1}\mathbf{v}_{1} + c_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots +c_{r} \mathbf{v}_{r} + c_{r+1} \mathbf{v}_{r+1} + \cdots + c_{n} \mathbf{v}_{n} = \mathbf{0} $$

この式を満たす解は自明解$c_{1}=c_{2} = \cdots = c_{r} = c_{r+1} = \cdots = c_{n} = 0$だけである。したがって、$c_{r+1} = \cdots = c_{n} = 0$であるため、次の式が成り立つ。

$$ \begin{align*} && c_{1}\mathbf{v}_{1} + c_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots +c_{r} \mathbf{v}_{r} + c_{r+1} \mathbf{v}_{r+1} + \cdots + c_{n} \mathbf{v}_{n} =&\ \mathbf{0} \\ \implies && c_{1}\mathbf{v}_{1} + c_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots +c_{r} \mathbf{v}_{r} + \left( 0\mathbf{v}_{r+1} + \cdots + 0 \mathbf{v}_{n} \right) =&\ \mathbf{0} \\ \implies && c_{1}\mathbf{v}_{1} + c_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots +c_{r} \mathbf{v}_{r} + \mathbf{0} =&\ \mathbf{0} \\ \implies && c_{1}\mathbf{v}_{1} + c_{2}\mathbf{v}_{2} + \cdots +c_{r} \mathbf{v}_{r} =&\ \mathbf{0} \end{align*} $$

しかし、この式は$c_{1} = c_{2} = \cdots = c_{r} = 0$の時にのみ成り立つため、$T$は線形独立である。

(e')

**(e)**の対偶として成立する。


  1. Howard Anton, Chris Rorres, Anton Kaul, Elementary Linear Algebra: Applications Version(12th Edition). 2019, p228-229 ↩︎