量子力学における波動関数とヒルベルト空間
ビルドアップ
古典力学では、与えられた条件でニュートンの第二法則$\mathbf{F} = m \mathbf{a}$を満たす位置関数$\mathbf{r}(t)$を見つけることが主な関心事だ。例えば、2次元空間で初速$\mathbf{v}_{0} = (v_{0}\cos\theta, v_{0}\sin\theta)$で発射された物体の時間による位置は次の連立方程式を解くことで求めることができ、これを放物線運動と呼ぶ。
$$ \begin{align*} m \dfrac{d^{2}\mathbf{r}}{dt^{2}} &= -mg\hat{\mathbf{y}} \\ \mathbf{v}(0) &= (v_{0}\cos\theta, v_{0}\sin\theta) \end{align*} $$
上の式を解くと、物体の位置を表す関数が次のようであることがわかる。
$$ \mathbf{r}(t) = -\dfrac{1}{2}gt^{2}\hat{\mathbf{y}} + t \mathbf{v}_{0} $$
位置を知ると速度$\mathbf{v} = \dfrac{d\mathbf{r}}{dt}$を知ることができ、速度を知ると運動量$\mathbf{p} = m\mathbf{v}$と運動エネルギー$T = \dfrac{1}{2}mv^{2}$を知ることができる。すなわち、$\mathbf{r}(t)$を求めることが重要なのは、これにより物体に関する物理的な情報を知ることができるからだ。
同様にして量子力学で関心を持つのは粒子の波動関数だ。物体の運動を分析するために古典力学ではニュートンの第二法則の解を求めるのと同様に、量子力学ではシュレディンガー方程式の解を求める。この関数が物体に関する物理的な情報を含んでいるからだ。
定義
次のようなシュレディンガー方程式の解solutionを波動関数wave functionと呼ぶ。
$$ \begin{align*} \i\hbar\frac{ \partial \psi}{ \partial t} &= \left(-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{ \partial ^{2} }{\partial x^{2} }+V\right)\psi & (\text{1-dim}) \\[1em] \i\hbar\frac{ \partial \psi}{ \partial t} &= \left(-\frac{\hbar^{2}}{2m}\nabla^{2}+V\right)\psi & (\text{3-dim}) \end{align*} $$
このとき$\hbar$はプランク定数、$V$はポテンシャル、$\nabla^{2}$はラプラシアンだ。
説明
波動関数の表記で主に使われる表記法は次の通りだ。
$$ \Psi(x, t),\quad \psi(x, t),\quad \phi(x, t),\quad u(x) $$
寿司店では位置と時間に関する波動関数を$\psi (x,t)$で表記し、時間に無関係で位置に関する波動関数は$u(x)$で表記する。ポテンシャルがない場合、つまり自由粒子free particleの波動関数は次の通りだ。
$$ \begin{align*} \psi(x, t) &= e^{\i (kx - \omega t)} = e^{\i (px - Et)/\hbar} & (\text{1-dim}) \\ \psi(\mathbf{r}, t) &= e^{\i (\mathbf{k}\cdot \mathbf{r} - \omega t)} = e^{\i (\mathbf{p}\cdot \mathbf{r} - Et)\hbar} & (\text{3-dim}) \end{align*} $$
上のシュレディンガー方程式で$V = 0$とおき、$\psi$を代入してみると式が成立することが簡単に確認できる。
$$ {-} \dfrac{\hbar^{2}}{2m}\dfrac{\partial^{2}}{\partial x^{2}}\psi = - \dfrac{\hbar^{2}}{2m} \dfrac{(\i p)^{2}}{\hbar^{2}} \psi = \dfrac{p^{2}}{2m}\psi = E\psi $$
$$ \i \hbar \dfrac{\partial \psi}{\partial } = \i \hbar \dfrac{(\i E)^{2}}{\hbar^{2}} \psi = E\psi $$
解釈
上で波動関数が物体に関する物理的な情報を含んでいると言ったが、これは具体的にマックス・ボルンの解釈によって$\left| \psi(x, t) \right|^{2}$を時間が$t$のとき、どの地点$x$で粒子が存在する確率密度関数として扱う。従って、以下の式は時間が$t$のとき区間$[a, b]$で粒子が存在する確率を意味する。
$$ \int _{a} ^b |\psi (x,t)|^2dx \\[1em] = \text{The probability that a particle exists in the interval } [a,b] \text{ at time } t $$
ヒルベルト空間
すべての波動関数の集合をヒルベルト空間と呼ぶ。数学的により厳密な定義があるが、物理学者はこの程度だけ知っておこう。(リンクを見れば説明を見ることができる。)すなわちヒルベルト空間とは次のように表現できる。
$$ \text{Hilbert space} = \left\{ \psi_{p, E}(x, t) = e^{\i (px - Et)/\hbar} : \forall p, E \in \mathbb{R} \right\} $$
ヒルベルト空間には二つの要素の間の内積が定義される。二つの波動関数の内積inner productは次のように定義される。
$$ \braket{\psi | \phi} := \int \psi^{*}(x, t) \phi(x, t) dx $$
コーシー・シュワルツ不等式
また内積があるのでコーシー-シュワルツ不等式が成立する。二つの波動関数$\psi$、$\phi$に対して、
$$ \left| \braket{\psi | \phi} \right| \leq \sqrt{\braket{\psi | \psi}}\sqrt{\braket{\phi | \phi}} $$
また次のように表現することもある。
$$ \left| \braket{\psi | \phi} \right|^{2} \le \braket{\psi | \psi} \braket{\phi | \phi} $$