主イデアル整域
定義 1
整域 $D$ の $p \ne 0$ が 単元 ではないとする。
PID
$D$ のすべての イデアルが 主イデアル である場合、$D$ を principal ideal domainpID という。
副定義
- 可換環 $R$ が 単位元 $1$ を持つとする。$a,b \in R$ に対して $b=ac$ を満たす $c \in R$ が存在するならば、$a$ が $b$ を 割るdivide または $a$ が $b$ の 因子factor であるといい、$a \mid b$ のように表す。
- $a \mid b$ であり、$b \mid a$ のとき、$a,b$ を 合一元associates という。
- $\forall a,b \in D$ と $p=ab$ に対して、$a$ または $b$ のいずれかが単元であれば、$p$ を 既約元irreducible element という。
- $\forall a,b \in D$ に対して、$p \mid ab$ であれば、$p \mid a$ または $p \mid b$ のような $p$ を 素元prime element という。
定理 2
$D$ が主イデアル整域であるとする。
- [1]: $D$ は ネーター環である。
- [2]: $0$ ではなく単元でもない $d \in D$ は $D$ の既約元の積で表される。
- [3]: $\left< p \right>$ が $D$ の極大イデアルであるならば、$p$ は $D$ の既約元である。
- [4]: $D$ の既約元は素元である。
説明
「principal ideal domain」という言葉は長いため、通常はPIDという略語がよく使用される。
合一元associates は結合法則associative とスペルは同じだが、名詞形であることに注意しなければならず、$-3,3 \in \mathbb{Z}$ のように相互に単元unit の積で表せる関係である。
例示
整数環 $\mathbb{Z}$
整数環 $\mathbb{Z}$ はすべての イデアル が $n \mathbb{Z} = \left< n \right>$ のように 主イデアル で表される。
すべての体 $\mathbb{F}$
ガウス整数環 $\mathbb{Z} [i]$ とアイゼンシュタイン整数環 $\mathbb{Z} [\omega]$
ガウス整数環 と アイゼンシュタイン整数環 はそれぞれ整数環 $\mathbb{Z}$ に純虚数 $i := \sqrt{-1}$ または $\omega := (-1)^{1/3}$ を追加した環である。
証明
[1]
- $N$ のイデアルたちが $S_{1} \le S_{2} \le \cdots$ を満たすとき、これを 上昇連鎖条件ascending Chain という。
- 上昇連鎖 $\left\{ S_{i} \right\}_{i \in \mathbb{N} }$ に対して、$S_{n} = S_{n+1} = \cdots$ を満たす $n \in \mathbf{n}$ が存在するならば 停止stationary という。言い換えれば、停止する上昇連鎖では イデアル がある時点からこれ以上大きくならない。
- すべての上昇連鎖が停止する環を ネーター環 という。
$D$ のイデアルの上昇連鎖 $N_{1} \le N_{2} \le \cdots$ とその合併 $\displaystyle N := \bigcup_{k=1}^{ \infty } N_{k}$ を考えよう。ある $i, j \in \mathbb{N}$ に対して $$ a \in N_{i} \\ b \in N_{j} \\ N_{i} \le N_{j} $$ とすると、$( N_{j} , + , \cdot )$ は イデアルとして定義された部分環 であり、$b$ の加法に関する逆元 $(-b) \in N_{j}$ が存在する。また、$ab \in N_{j}$ なので、$(a-b), ab \in N$ であり、部分環判定法 によって $N$ は $D$ の部分環になる。それだけでなく、$N_{i}$ がイデアルであるため、すべての $d \in D$ に対して $d a = a d$ であり、$da \in N$ なので $N$ は $D$ の イデアル になる。
$D$ はPIDであるため、すべての イデアル が 主イデアル であり、ある $c \in N$ に対して $N = \left< c \right>$ のように表せる。ここで $\displaystyle N = \bigcup_{k=1}^{ \infty } N_{k}$ なので、$c \in N_{r}$ を満たす 自然数 $r \in \mathbb{N}$ が存在しなければならない。$c \in N_{r}$ というのは、$N_{r}$ より小さいイデアルの中に $c$ を生成元とする主 イデアル が存在することを意味する。数式で書くと $$ \left< c \right> \le N_{r} \le N_{r+1} \le \cdots \le N = \left< c \right> $$ したがって、$N_{r} = N_{r+1} = \cdots$ である。以上のように、$D$ は ネーター環 である。
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[2]
$d$ が既約元ならば証明することはないので、単元ではない $d_{1}, c_{1} \in D$ に対して $d = d_{1} c_{1}$ のように表すと考えよう。
すると、$\left< d \right> \le \left< d_{1} \right>$ であり、$d_{i} := d_{i+1} c_{i+1}$ を続けて定義すると上昇連鎖 $$ \left< d \right> \le \left< d_{1} \right> \le \left< d_{2} \right> \le \cdots $$ を得る。しかし、定理 [1] によればこの連鎖が終わる $a_{r}$ が存在しなければならず、$a_{r}$ は同時に $a$ の因子となる既約元である。このようにして $d$ を割る既約元を $p_{1}$ とし、単元ではない $f_{1}$ に対して $d = p_{1} f_{1}$ だとすると、$\left< d \right> \le \left< f_{1} \right>$ であり、$f_{i} := p_{i+1} f_{i+1}$ を続けて定義すると上昇連鎖 $$ \left< d \right> \le \left< f_{1} \right> \le \left< f_{2} \right> \le \cdots $$ を得る。また定理 [1] によれば、この連鎖が終わる $f_{s}$ が存在しなければならず、$f_{s}$ は同時に $f_{i}$ の因子となる既約元である。
この過程を有限回繰り返すことにより、$d$ は既約元の積で表されることを確認できる。
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[3]
$( \implies )$
$D$ の極大イデアル $\left< p \right>$ の $p$ が $D$ の単元でない $a,b$ に対して $p=ab$ のように表されると仮定しよう。
すると、$\left< p \right> \le \left< a \right>$ となり、$\left< p \right> = \left< a \right>$ となれば $b$ は単元でなければならないので、実際には $\left< p \right> \lneq \left< a \right>$ を得る。しかし、$\left< p \right>$ は 極大イデアル なので $\left< a \right> = D = \left< 1 \right>$ でなければならず、$a$ と $1$ は合一元となる。整理すると
- $\left< p \right> \ne \left< a \right>$ のとき、$a$ は単元であり、
- $\left< p \right> = \left< a \right>$ のとき、$b$ は単元となるので
$p$ は既約元であるしかない。
$( \impliedby )$
既約元 $p=ab$ に対して $\left< p \right> \le \left< a \right>$ と仮定しよう。
$a$ が単元ならば $\left< a \right> = D$ なので問題はないが、$a$ が単元でないとすると、$b$ は必ず単元でなければならない。
$b$ が単元ということは、ある $u \in D$ に対して $bu =1$ という意味なので、 $$ pu = abu = a $$ したがって $\left< p \right> \ge \left< a \right>$ 、すなわち $\left< p \right> = \left< a \right>$ でなければならない。整理すると、
- $\left< a \right> = D$ または、
- $\left< a \right> = \left< p \right>$ でなければならないので、
$\left< p \right>$ は極大 イデアル である。
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[4]
$p$ が既約元であるならば、$\left< p \right>$ は定理 [3] によって 極大イデアルであり、$1 \in D$ なので素イデアル である。
$p$ が $ab$ を割るならば $(ab) \in \left< p \right>$ であり、$\left< p \right>$ は素イデアルであるため、$a \in \left< p \right>$ または $b \in \left< p \right>$ である。これを別の言葉で言い換えると、$p \mid ab$ とき $p \mid a$ または $p \mid b$ なので、$p$ は素元である。
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