ヴロンスキアンの定義と線形独立の判断
定義1
$S=\left\{ f_{1}, f_{2}, \dots, f_{n} \right\}$が$n-1$回まで微分可能な関数の集合であるとする。このロンスキアンWronskian $W$を以下のような行列式で定義する。
$$ W(x) = W(f_{1}, f_{2}, \dots, f_{n}) := \begin{vmatrix} f_{1} & f_{2} & \cdots & f_{n} \\ f_{1}^{\prime} & f_2^{\prime} & \cdots & f_{n}^{\prime} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ f_{1}^{(n-1)} & f_{2}^{(n-1)} & \cdots & f_{n}^{(n-1)} \end{vmatrix} $$
説明
微分可能な関数の集合もまた、ベクトル空間となる関数空間である。関数の集合の線形独立/従属を判断する一般的な方法はないが、微分可能な関数についてはロンスキアンを使用して線形独立性を知ることができる。
以下で紹介する定理で最も重要な点は、命題が必要十分でないことである。逆が成立しないことをしっかり理解する必要がある。$W(x) \ne 0$であれば線形独立であるとわかるが、$W(x)=0$のときは独立か従属か判断できない。
定理
$S$を定義と同じ集合とする。$S$のロンスキアンが$0$ではない場合、$S$は線形独立である。
証明
対偶法で証明する。つまり$S$が線形従属であればロンスキアン$W$は常に$0$であることを示す。
$S=\left\{ f_{1},\ f_{2},\ \cdots,\ f_{n} \right\}$を線形従属と仮定する。すると定義により下の等式を満たす$0$ではない$k_{i}(i=1,2,\dots,n)$が存在する。
$$ \begin{equation} k_{1} f_{1} + k_{2} f_{2} + \cdots + k_{n} f_{n} = 0 \label{eq1} \end{equation} $$
上の式を微分すると次のようになる。
$$ \begin{align*} k_{1} f_{1}^{\prime} + k_{2} f_{2}^{\prime} + \cdots + k_{n} f_{n}’&=0 \\ k_{1} f_{1}^{(2)} + k_{2} f_{2}^{(2)} + \cdots + k_{n} f_{n}^{(2)}&=0 \\ \vdots& \\ k_{1} f_{1}^{(n-1)} + k_{2} f_{2}^{(n-1)} + \cdots + k_{n} f_{n}^{(n-1)} &=0 \end{align*} $$
この連立方程式を行列表現に変えると以下のようになる。
$$ \begin{align*} \begin{pmatrix} f_{1} & f_{2} & \cdots & f_{n} \\ f_{1}^{\prime} & f_2^{\prime} & \cdots & f_{n}^{\prime} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ f_{1}^{(n-1)} & f_{2}^{(n-1)} & \cdots & f_{n}^{(n-1)} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} k_{1} \\ k_{2} \\ \vdots \\ k_{n} \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} \\ \mathbf{F} \mathbf{k} &= \mathbf{0} \end{align*} $$
このとき上の式は非自明解 $\mathbf{k} \ne \mathbf{0}$を持つ。それゆえに同値条件によって$\mathbf{F}$は可逆行列ではなく、行列式は$0$である。$\mathbf{F}$の行列式はロンスキアンなので
$$ W(x) = 0,\quad \forall x \in \mathbb{R}. $$
したがって$S$が線形従属であればロンスキアン$W$は常に$0$である。
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Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Aplications Version (12th Edition, 2019), p234-235 ↩︎