コリオリ力(転向力)
定義1

慣性系$Oxyz$と、原点を共有し、これに対して角速度$\boldsymbol{\omega}$で回転する座標系$Ox^{\prime}y^{\prime}z^{\prime}$を考えよう。回転軸方向の単位ベクトルを$\mathbf{n}$、角速さを$\omega$とすれば、回転座標系の角速度は$\boldsymbol{\omega} = \omega \mathbf{n}$であり、その向きは外積の定義と同じく右手の法則で定める。$\mathbf{i}^{\prime}, \mathbf{j}^{\prime}, \mathbf{k}^{\prime}$は回転座標系の基底であり、慣性系の基底$\mathbf{i}, \mathbf{j}, \mathbf{k}$とは異なり時間とともに変化する。質量$m$の粒子の位置、速度、加速度を回転座標系で測定したものをそれぞれ$\mathbf{r}^{\prime}, \mathbf{v}^{\prime}, \mathbf{a}^{\prime}$とし、慣性系において粒子に実際に作用する力の和を$\mathbf{F}$としよう。回転座標系で観測した粒子の運動方程式は次のとおりである。
$$ m \mathbf{a}^{\prime} = \mathbf{F} - m \dot{\boldsymbol{\omega}} \times \mathbf{r}^{\prime} - m \boldsymbol{\omega} \times \left( \boldsymbol{\omega} \times \mathbf{r}^{\prime} \right) - 2 m \boldsymbol{\omega} \times \mathbf{v}^{\prime} \tag{1} $$
右辺のうち実際の力$\mathbf{F}$を除いた残りの項を慣性力inertial forceあるいは見かけの力fictitious forceといい、そのうち粒子の速度に比例する項をコリオリ力Coriolis forceという。
$$ \mathbf{F}_{\text{Cor}} := - 2 m \boldsymbol{\omega} \times \mathbf{v}^{\prime} $$
説明
コリオリ力を簡単に言えばこうである。回転する座標系の上で物をまっすぐ投げると、慣性系では直線に飛んでいくが、座標系とともに回る観測者には経路が横に曲がって見える。この観測者が曲がりの原因として感じる力がコリオリ力である。下の図と映像は、回転座標系の上で物体を投げたとき、それぞれその外と中で見る観測者が物体の軌跡をどう感じるかをよく示している。回転座標系の観測者は確かに物体をまっすぐ投げたが、座標系自体が回転しているので物体の軌跡が曲がって見える。一方、回転座標系の外から見ている人には、物体がそのまま直線運動しているように見える。

コリオリ力は角速度$\boldsymbol{\omega}$と速度$\mathbf{v}^{\prime}$の両方に垂直である。二つのベクトルのなす角を$\alpha$とすれば大きさは$2m\omega v^{\prime} \sin\alpha$であり、粒子が回転座標系に対して静止しているか($\mathbf{v}^{\prime} = \mathbf{0}$)、回転軸と平行に動けば($\mathbf{v}^{\prime} \parallel \boldsymbol{\omega}$)消える。慣性力の中で唯一速度に依存し、常に速度に垂直なので粒子に仕事をしない。すなわちコリオリ力は速さを変えず、運動の向きだけを曲げる。回転軸の上から見下ろしたとき座標系が反時計回りに回れば、コリオリ力は進行方向の右側に作用する。
係数2は二つの効果が重なって生じる。一つは、回転座標系の基底$\mathbf{i}^{\prime}, \mathbf{j}^{\prime}, \mathbf{k}^{\prime}$が時間とともに回るため、同じ速度ベクトル$\mathbf{v}^{\prime}$も慣性系から見れば$\boldsymbol{\omega} \times \mathbf{v}^{\prime}$だけ変化する効果であり、もう一つは、粒子が$\mathbf{v}^{\prime}$で動くと位置$\mathbf{r}^{\prime}$が変わり、座標系の回転による速度$\boldsymbol{\omega} \times \mathbf{r}^{\prime}$が$\boldsymbol{\omega} \times \mathbf{v}^{\prime}$の割合で変化する効果である。二つの項が同じ大きさで加わって$2\boldsymbol{\omega} \times \mathbf{v}^{\prime}$となる。
地球は角速さ$\omega \approx 7.29 \times 10^{-5},\mathrm{rad/s}$で自転しているので、地表面に固定された座標系は回転座標系である。緯度$\lambda$の地点で$\boldsymbol{\omega}$を鉛直成分$\omega \sin\lambda$と北を向く水平成分$\omega \cos\lambda$に分けると、水平に動く物体が受けるコリオリ力の水平成分は鉛直成分からのみ生じ、その大きさは$2m\omega v^{\prime} \sin\lambda$である。北半球では進行方向の右側、南半球では左側に作用し、赤道では$0$である。
地球の自転は遅いので、この力は非常に小さい。緯度$45^{\circ}$で$10,\mathrm{m/s}$で動く物体が受けるコリオリ加速度は約$10^{-3},\mathrm{m/s^{2}}$で、重力加速度の一万分の一程度である。したがって日常的な規模の運動では無視できるが、長い時間にわたり広い空間で起こる運動では効果が蓄積して顕著になる。北半球の低気圧が反時計回りに回ること、フーコーの振り子の振動面が一日に$360^{\circ} \sin\lambda$だけ回ること、長距離砲弾が右に偏ること、自由落下する物体が東に偏ることがその例である。浴槽の水が抜けるときの渦の向きが半球によって異なるという話はよくある誤解で、その規模ではコリオリ力は容器の形や水の初期の流れに比べてはるかに小さい。
気象学と地理学では、運動の向きを変えるという意味で転向力と呼ぶ。名前は、1835年に回転機械の力学を扱いながらこの力を初めて記述したフランスの技術者ガスパール・ギュスターヴ・ド・コリオリGaspard-Gustave de Coriolisにちなむ。
Grant R. Fowles and George L. Cassiday. Analytical Mechanics (7th Edition, 2005), p196-201. ↩︎
