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リー代数のはしご演算子 📂表現論

リー代数のはしご演算子

定義

リー代数$\mathfrak{g}$が与えられたとする。$H\in \mathfrak{g}$に対して、$0$でないスカラー$\alpha$について次の関係を満たす$E_{\alpha} \in \mathfrak{g}\setminus\left\{ 0 \right\}$を$H$のはしご演算子ladder operatorという。

$$ [H, E_{\alpha}] = \alpha E_{\alpha}, \quad (\alpha \ne 0,\ E_{\alpha} \ne 0) \tag{1} $$

説明

これを演算子と呼ぶ理由は、これが実際に有効に作用する場所が$\mathfrak{g}$の表現空間だからである。これをはしご演算子と呼ぶ理由は、表現$\pi$が与えられたとき、$\pi(E_{\alpha})$を$\pi(H)$の固有ベクトルに適用すると、別の固有ベクトルへ移るからである。つまり正確に言えば、$\pi(E_{\alpha})$がはしご演算子である。そして、はしご演算子という用語は特に量子力学で広く使われる言葉である。

以下、表現空間上での作用を扱うときは、便宜のため次のように$\pi$を省略して表すことにする。

$$ H = \pi(H), \quad E_{\alpha} = \pi(E_{\alpha}) $$

$H$の固有値を$\lambda$、これに対応する固有ベクトルを$v_{\lambda}$とする。

$$ Hv_{\lambda} = \lambda v_{\lambda} $$

すると$E_{\alpha}v_{\lambda}$が$0$でないとき、これが固有値$\lambda+\alpha$に対応する固有ベクトルであることを次のように示せる。

$$ \begin{align*} H(E_{\alpha}v_{\lambda}) &= (HE_{\alpha})v_{\lambda} \\ &= (E_{\alpha}H + \alpha E_{\alpha})v_{\lambda} \\ &= (\lambda E_{\alpha} + \alpha E_{\alpha})v_{\lambda} \\ &= (\lambda + \alpha)(E_{\alpha}v_{\lambda}) \end{align*} $$

特に$\alpha$が実数のとき、$\alpha > 0$ならば固有値が上がり続けるので、$E_{\alpha}$を上昇演算子raising operatorという。逆に$\alpha \lt 0$ならば下降演算子lowering operatorという。

$\ad_{H}$の固有ベクトル

一方、$(1)$をリー代数の随伴写像で表すと次のようになる。

$$ [H, E_{\alpha}] = \ad_{H} (E_{\alpha}) = \alpha E_{\alpha} $$

つまり$E_{\alpha}$が$(1)$を満たすということは、$E_{\alpha}$が線形変換$\ad_{H}$の固有値$\alpha$に対応する固有ベクトルであるという意味である。混同しないよう注意すべきなのは、$E_{\alpha}$はベクトル空間$\mathfrak{g}$に属する固有ベクトルであり、上の説明で登場した$v_{\lambda}$はベクトル空間$V$に属するということである。

逆方向のはしご演算子

$\mathfrak{g}$を有限次元半単純リー代数とする。$E_{\alpha} \in \mathfrak{g}$を固有値$\alpha$に対応する$\ad_{H}$の固有ベクトルとする。$\mathfrak{g}$が🔒(26/10/04)半単純なので、キリング形式$B$は非退化である。 キリング形式の性質$B(\ad_{H}X, Y) = - B(X, \ad_{H}Y)$を行列で表そう。$B$に対応する行列を$G$、$\ad_{H}$に対応する行列を$A$とすると、この性質は次のように表される。

$$ A^{\mathsf{T}} G = - GA $$

$B$が非退化なので、$G$は可逆である。 したがって次のように、$A^{\mathsf{T}}$と$-A$は相似である。

$$ G^{-1}A^{\mathsf{T}} G = -A $$

$A$の固有値の集合を$\sigma (A)$と表す。転置は固有値を変えない。そして相似な行列は固有値が等しいので、次が成り立つ。

$$ \sigma(A) = \sigma(A^{\mathsf{T}}) = \sigma(-A) = -\sigma(A) $$

ゆえに$\alpha$が$\ad_{H}$の固有値ならば、$-\alpha$もまた固有値である。

$$ \alpha \in \sigma(\ad_{H}) \implies -\alpha \in \sigma(\ad_{H}) $$

したがって固有値$-\alpha$に対応する$\ad_{H}$の固有ベクトル$E_{-\alpha} \in \mathfrak{g}$が存在して、次が成り立つ。

$$ [H, E_{-\alpha}] = \ad_{H} E_{-\alpha} = -\alpha E_{-\alpha} $$

したがって固有ベクトル$v_{\lambda} \in V_{\lambda}$に$E_{-\alpha}E_{\alpha}$や$E_{\alpha}E_{-\alpha}$を適用すると、元の固有空間$V_{\lambda}$に戻ってくる。このとき注意すべきは、元の固有空間に戻ってくるということであって、固有ベクトルそのものが保たれるという意味ではないことである。$\dim V_{\lambda} \ge 2$ならば、別の固有ベクトルに変わる可能性がある。

$$ \begin{align*} E_{-\alpha}E_{\alpha} v_{\lambda} &= v_{\lambda} &\mathsf{(X)} \\ E_{-\alpha}E_{\alpha} v_{\lambda} &\in V_{\lambda} &\mathsf{(O)} \end{align*} $$

表現を用いて厳密に表すと次のようになる。

$$ \pi(E_{\alpha}) : V_{\lambda} \to V_{\lambda+\alpha}, \quad \pi(E_{-\alpha}) : V_{\lambda+\alpha} \to V_{\lambda} $$

$$ \pi(E_{-\alpha})\pi(E_{\alpha})(V_{\lambda}) \subset V_{\lambda} $$

有限次元において

$V$が有限次元であるとする。$H$の固有ベクトル$v_{\lambda}$に$E_{\alpha}$を適用すると、$\lambda + \alpha$、$\lambda + 2\alpha$、$\cdots$に対応する固有ベクトルを次々と得られるように見える。上の計算を繰り返すと、各$k = 0, 1, 2, \cdots$について次が成り立つからである。

$$ H \left( (E_{\alpha})^{k} v_{\lambda} \right) = (\lambda + k\alpha) \left( (E_{\alpha})^{k} v_{\lambda} \right) $$

$\alpha \ne 0$なので、$\lambda$、$\lambda + \alpha$、$\lambda + 2\alpha$、$\cdots$は互いに異なる値である。ところが互いに異なる固有値に対応する固有ベクトルは互いに線形独立であり、$V$が有限次元なので、このような線形独立な固有ベクトルを際限なく得ることはできない。言い換えれば、すべての$k$について$(E_{\alpha})^{k}v_{\lambda} \ne 0$ならば、$V$の中に線形独立なベクトルが無限に多く存在することになり矛盾である。したがって次が成り立つ正の整数$m$が存在する。

$$ (E_{\alpha})^{m} v_{\lambda} = 0 $$

このような$m$のうち最小のものを選ぶ。すると$w^{+} = (E_{\alpha})^{m-1}v_{\lambda}$は$m$の最小性により$0$ではなく、次を満たす。

$$ E_{\alpha}w^{+} = (E_{\alpha})^{m} v_{\lambda} = 0, \qquad Hw^{+} = \left( \lambda + (m-1)\alpha \right) w^{+} $$

つまり、はしごを渡っていくと、もはや新しい固有ベクトルへ移ることができず零ベクトルへ送られる最後の固有ベクトルに必ず出会う。前節で見たように、$\mathfrak{g}$が半単純ならば$-\alpha$もまた$\ad_{H}$の固有値なので、逆方向の演算子$E_{-\alpha}$についても同じ論法がそのまま適用される。同様に$(E_{-\alpha})^{\ell} v_{\lambda} = 0$となる最小の正の整数$\ell$を選び、$w^{-} = (E_{-\alpha})^{\ell - 1} v_{\lambda}$とする。すると次を満たす。

$$ E_{-\alpha}w^{-} = (E_{-\alpha})^{\ell} v_{\lambda} = 0, \qquad Hw^{-} = \left( \lambda - (\ell-1)\alpha \right) w^{-} $$

結局、$v_{\lambda}$から出発して$E_{\alpha}$または$E_{-\alpha}$をそれぞれ繰り返し適用して得られる固有ベクトルのはしごは両側で途切れ、その両端のベクトル$w^{+}$、$w^{-}$はそれぞれ$E_{\alpha}$と$E_{-\alpha}$によって$0$へ送られる。

$$ \begin{align*} &v_{\lambda} \xrightarrow{\ E_{\alpha}\ } E_{\alpha}v_{\lambda} \xrightarrow{\ E_{\alpha}\ } \cdots \xrightarrow{\ E_{\alpha}\ } w^{+} \xrightarrow{\ E_{\alpha}\ } 0 \\ 0 \xleftarrow{\ E_{-\alpha}\ } w^{-} \xleftarrow{\ E_{-\alpha}\ } \cdots \xleftarrow{\ E_{-\alpha}\ } E_{-\alpha}v_{\lambda} \xleftarrow{\ E_{-\alpha}\ }\enspace &v_{\lambda} \end{align*} $$