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同時固有ベクトル 📂線形代数

同時固有ベクトル

定義1

$V$をベクトル空間、$\mathcal{A}$を$V$上の線形作用素たちのコレクションとしよう。

$$ \mathcal{A} = \left\{ A : V \to V \mid A \text{ is linear}\right\} \subset \operatorname{End}(V) $$

次を満たす零ベクトルでない$v \in V$を$\mathcal{A}$に対する同時固有ベクトルsimultaneous eigenvectorという。

$$ A v = \lambda_{A} v, \quad \forall A \in \mathcal{A} $$

$\lambda_{A}$たちを同時固有値simultaneous eigenvalueという。

説明

同時固有ベクトルとは、その名の通り同時に複数の線形作用素に対して固有ベクトルとなるベクトルのことである。対応する固有値は作用素$A$によって異なりうる。以下の定理により、有限次元複素ベクトル空間上で互いに交換可能な作用素たちは同時固有ベクトルを持つ。互いに交換可能でない作用素たちは概して同時固有ベクトルを持たない。

定理は三つの作用素について述べられているが、より一般に互いに交換可能な線形作用素たちのコレクション$\mathcal{A}$についても同じ結論が成り立つ。定理における有限次元複素ベクトル空間という条件も、各作用素の固有値が存在することを保証するために必要である。そして逆も成り立つ。すなわち同時固有ベクトルを持つ二つの作用素は交換可能である。これは容易に示せる。$A$と$B$の同時固有ベクトルを$v$としよう。

$$ \begin{align*} (AB - BA)v &= (A \lambda_{B} - B\lambda_{A})v \\ &= (\lambda_{B}A - \lambda_{A}B)v \\ &= (\lambda_{B}\lambda_{A} - \lambda_{A}\lambda_{B})v \\ &= 0 \end{align*} $$

同時固有値を線形汎関数へ拡張したものをウェイトという。

定理

$\left\{ 0 \right\}$でない有限次元複素ベクトル空間 $V$と$V$上の線形作用素 $A$、$B$、$C$が与えられたとしよう。$A$、$B$、$C$が互いに交換可能ならば、$\mathcal{A} = \left\{ A, B, C \right\}$に対する同時固有ベクトルが少なくとも一つ存在する。

証明

$A$、$B$、$C$が互いに交換可能であるとしよう。

$$ [A, B] = AB - BA = 0 = [B, C] = [C, A] $$


Part 1. $A$の固有空間

$V$が$\left\{ 0 \right\}$でない有限次元複素ベクトル空間なので、$A$の特性多項式は次数が$\dim V \ge 1$の複素係数多項式であり、代数学の基本定理によって根を持つ。その根の一つを$\lambda_{A} \in \mathbb{C}$としよう。特性多項式の根は固有値なので$\lambda_{A}$は$A$の固有値であり、これに対応する$A$の固有空間を次のように置こう。

$$ V_{A} := \left\{ v \in V : Av = \lambda_{A}v \right\} $$

$\lambda_{A}$が固有値なので$V_{A} \ne \left\{ 0 \right\}$であり、$V_{A}$は$V$の部分空間である。

Part 2. $V_{A}$は$B$不変、$C$不変である

$v \in V_{A}$としよう。$A$と$B$が交換可能なので次が成り立つ。

$$ \begin{align*} A(Bv) &= (AB)v \\ &= (BA)v \\ &= B(Av) \\ &= B(\lambda_{A}v) \\ &= \lambda_{A}(Bv) \end{align*} $$

$A(Bv) = \lambda_{A}(Bv)$なので$Bv \in V_{A}$であり、したがって$V_{A}$は$B$・不変部分空間である。$A$と$C$も交換可能なので、同じ計算により$V_{A}$は$C$不変でもある。

Part 3. $B$の固有空間へ絞り込む

$V_{A}$が$B$不変なので制限写像 $B|_{V_{A}} : V_{A} \to V_{A}$を考えることができる。$V_{A}$もまた$\left\{ 0 \right\}$でない有限次元複素ベクトル空間なので、Part 1と同じ理由により$B|_{V_{A}}$は固有値$\lambda_{B} \in \mathbb{C}$を持つ。これに対応する$B|_{V_{A}}$の固有空間を次のように置けば$V_{AB} \ne \left\{ 0 \right\}$である。

$$ V_{AB} := \left\{ v \in V_{A} : Bv = \lambda_{B}v \right\} $$

$V_{AB}$は$C$不変である。$v \in V_{AB}$とすればPart 2により$Cv \in V_{A}$であり、$B$と$C$が交換可能なので次が成り立つからである。

$$ B(Cv) = (BC)v = (CB)v = C(Bv) = C(\lambda_{B}v) = \lambda_{B}(Cv) $$

したがって$Cv \in V_{AB}$である。

Part 4. 同時固有ベクトル

$C|_{V_{AB}} : V_{AB} \to V_{AB}$もまた$\left\{ 0 \right\}$でない有限次元複素ベクトル空間上の線形作用素なので、Part 1と同じ理由により固有値$\lambda_{C} \in \mathbb{C}$と、これに対応する固有ベクトル$v \ne 0$を持つ。$v \in V_{AB} \subset V_{A}$なので次がすべて成り立つ。

$$ Av = \lambda_{A}v, \quad Bv = \lambda_{B}v, \quad Cv = \lambda_{C}v $$

すなわち零ベクトルでない$v$は$\mathcal{A} = \left\{ A, B, C \right\}$に対する同時固有ベクトルであり、$\lambda_{A}$、$\lambda_{B}$、$\lambda_{C}$が$v$に対応する同時固有値である。

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  1. Brian C. Hall. Lie Groups, Lie Algebras, and Representations (2nd), p417. ↩︎