logo

ベクトル空間としての複素数の集合 📂複素解析

ベクトル空間としての複素数の集合

説明

複素数の集合$\mathbb{C}$はそれ自体が体であり、自分自身をスカラー体とする$\mathbb{C}$-ベクトル空間となる。すなわち、すべての$z \in \mathbb{C}$は$z = z \cdot 1$のように一意に表せるので、基底が$\left\{ 1 \right\}$の$1$次元ベクトル空間である。

$$ \dim_{\mathbb{C}}(\mathbb{C}) = 1,\quad \mathbb{C} = \span_{\mathbb{C}} \left\{ 1 \right\} $$

ところが、スカラー体を実数$\mathbb{R}$とすると結果が変わる。すべての$z$は二つの実数$x, y \in \mathbb{R}$によって$z = x + iy$と一意に表せる。したがってこの場合、$\mathbb{C}$を生成する基底は$\left\{ 1, i \right\}$となる。

$$ \dim_{\mathbb{R}}(\mathbb{C}) = 2,\quad \mathbb{C} = \span_{\mathbb{R}} \left\{ 1, i \right\} $$

このように、同じ集合であってもどのスカラー体の上で見るかによってベクトル空間の構造が変わりうる。スカラー体を$\mathbb{C}$から$\mathbb{R}$に変えたときに基底の大きさが$1$から$2$に増えたのは、なかった元が新たに生じたからではない。集合$\mathbb{C}$はそのままで、同じ二つの元$1$と$i$に対する線形独立性の判定がスカラー体によって覆っただけである。$i = i \cdot 1$なので$\left\{ 1, i \right\}$は$\mathbb{C}$上では線形従属だが、$a, b \in \mathbb{R}$について$a \cdot 1 + b \cdot i = 0$ならば$a = b = 0$なので、$\mathbb{R}$上では線形独立である。線形独立かどうか自体がスカラー体に依存するというわけである。

次元を上げて$\mathbb{C}^{2}$を見ると、次のような違いが生じる。

$$ \dim_{\mathbb{C}}(\mathbb{C}^{2}) = 2,\quad \mathbb{C}^{2} = \span_{\mathbb{C}} \left\{ (1,0), (0,1) \right\} $$

$$ \dim_{\mathbb{R}}(\mathbb{C}^{2}) = 4,\quad \mathbb{C}^{2} = \span_{\mathbb{R}} \left\{ (1,0), (i,0), (0,1), (0,i) \right\} $$

一般に、$n$次元実ベクトル空間は$\mathbb{R}^{n}$と同型であるから、$\mathbb{R}$-ベクトル空間としての$\mathbb{C}^{n}$について次の結果を得る。

$$ \mathbb{C}^{n} \cong \mathbb{R}^{2n} $$

部分空間

$\mathbb{C}$-ベクトル空間としての$\mathbb{C}$は$1$次元なので、その部分空間は$\left\{ 0 \right\}$と$\mathbb{C}$自身だけである。実数の集合は部分空間になりそうに思えるが、そうではない。$i \cdot 1 = i \notin \mathbb{R}$なので、$\mathbb{R}$は複素数の積について閉じておらず、$\mathbb{C}$-部分空間ではない。

一方、$\mathbb{R}$-ベクトル空間として見ると、次のような$z_{0} \ne 0$について、原点を通る直線一つ一つがすべて$1$次元の$\mathbb{R}$-部分空間となる。

$$ \mathbb{R}z_{0} = \left\{ t z_{0} : t \in \mathbb{R} \right\} \subset \mathbb{C}, \quad \forall z_{0} \in \mathbb{C} $$

このように、$\mathbb{C}$の$\mathbb{R}$-部分空間は$\left\{ 0 \right\}$、($\mathbb{R}$を含む)原点を通る直線たち、$\mathbb{C}$自身と無数に存在する。したがって、$\mathbb{C}$の部分空間としての$\mathbb{R}$を語るということは、スカラー体を実数の集合とすることを仮定しているという意味である。