量子力学における固有関数の完備性
定義
波動関数の数列(集合) $S = \left\{ \psi_{0}, \psi_{1}, \psi_{2}, \dots \right\}$が与えられたとする。任意の波動関数$\phi$が以下のように$S$の級数として表されるとき、この数列(集合)は完備性completenessを持つという。
$$ \phi(x) = \sum\limits_{n = 0}^{\infty} c_{n}\psi_{n}(x) $$
特に$S$が正規直交集合であれば、すなわち各$\psi_{n}$が規格化されており互いに直交して$\braket{\psi_{m} | \psi_{n}} = \delta_{mn}$を満たすなら、係数$c_{n}$は次のように内積によって与えられる。
$$ c_{n} = \braket{\psi_{n} | \phi} $$
有限次元の場合、以下のように有限な線形結合として表されるとき完備であるという。
$$ \phi(x) = \sum\limits_{n = 0}^{N} c_{n}\psi_{n}(x) $$
固有値が連続スペクトルを持つ場合には、和ではなく積分として表される。
$$ \phi(x) = \int_{-\infty}^{\infty} c_{z}\psi_{z}(x) dz $$
説明1
completenessは韓国語では完備性あるいは完全性と訳される。数学では完備性という訳語が標準であるが、物理の教科書では'完全である'、'完全性'という表現も使われる。この記事では完備性で統一する。
完備性が重要である理由は、量子力学の理論体系が次の前提の上に立っているからである。
観測可能量を表すエルミート演算子の固有関数は完備集合をなす。
量子力学において物理量を測定する行為は演算子で表され、測定によって得られる値はその演算子の固有値である。エルミート演算子$A$の固有値方程式 $A \psi_{n} = a_{n} \psi_{n}$を解いて得られた固有関数が完備集合をなすということは、系がどのような状態$\phi$にあっても、その状態を固有関数の級数として展開できるという意味である。このとき$\phi$が規格化されていれば係数は$\sum_{n} \left| c_{n} \right|^{2} = 1$を満たし、$\left| c_{n} \right|^{2}$は状態$\phi$で$A$を測定したときに固有値(=エネルギー)$a_{n}$を得る確率と解釈される。言い換えれば、完備性が保証されなければ$\sum_{n} |c_{n}|^{2} \lt 1$となりうるし、測定に対する確率的解釈そのものが成り立たない。
離散スペクトル
固有値が離散スペクトルを持つ場合には、これに対応する固有関数が完備集合であることが数学的に保証される。すなわち固有関数の集合が分かっていれば、任意の波動関数$\phi$を以下のように表すことができる。これは$\phi$を具体的に知らなくても固有関数の和としてこれを扱えるという意味である。
$$ \phi = \sum\limits_{n = 0}^{\infty} c_{n}\psi_{n}, \qquad c_{n} = \braket{\psi_{n} | \phi} $$
たとえば無限ポテンシャル井戸や調和振動子の場合に、固有関数は次のように得られる。すなわち各系において任意の波動関数はこれらの固有関数の線形結合として表すことができる。
$$ \psi_{n}{(x)} = \textstyle \sqrt{\frac{2}{a}}\sin \left( \frac{n\pi}{a}x \right),\qquad \psi_{n}(x) = \dfrac{1}{\sqrt{2^{n}n!}} \alpha^{-n/2} \left( \dfrac{\alpha}{\pi} \right)^{1/4} \left( \alpha x - \dfrac{\d }{\d x} \right)^{n} e^{-\frac{\alpha}{2} x^{2}} $$
連続スペクトル
一方で固有値が連続スペクトルを持つ場合には問題がある。当該の固有関数がヒルベルト空間に属さないからである。ベクトル空間では、その要素どうしを足したものも再びベクトル空間の要素でなければならない。すなわち加法について閉じていなければならない。ところが連続スペクトルの固有関数はヒルベルト空間の要素ではないので、これらを普通のベクトルのように単純に足すだけでは、ヒルベルト空間内の任意の波動関数を表現できない。
代わりにこれらの固有関数を積分を通じて連続的に重ね合わせれば、ヒルベルト空間に属する波動関数を構成できる。これをいくら足しても、ある波動関数を表現することはできない。幸いにも加法ではなく積分で固有関数を重ね合わせれば、これはヒルベルト空間に属することになる。そこで任意の波動関数$\phi$を、連続スペクトルの固有関数$\psi_{p}$の積分として以下のように表すことができる。
$$ \phi = \int_{-\infty}^{\infty} c_{p} \psi_{p} \d p, \qquad c_{p} = \braket{\psi_{p} | \phi} $$
ここで$\psi_{p}$自体はヒルベルト空間の要素ではないが、適切な係数$c_{p}$からなる積分の重ね合わせはヒルベルト空間の要素になりうる。
David J. Griffiths. 양자역학(Introduction to Quantum Mechanics, 권영준 역) (2nd Edition, 2006) p100. ↩︎
