連続スペクトルとディラック規格化
概要1
量子力学において観測可能量はエルミート演算子で表され、測定で得られる値はその演算子の固有値である。固有値全体の集合であるスペクトルは大きく二つに分けられる。
離散スペクトルdiscrete spectra: 固有値が互いに量子化されている場合。固有関数は規格化が可能であり、物理的に実現可能な状態を表す。無限ポテンシャル井戸や調和振動子のハミルトニアンが代表的な例である。
連続スペクトルcontinuous spectra: 固有値がある範囲を連続的に埋め尽くす場合。固有関数は規格化が不可能であり、どれも波動関数にはなり得ない。自由粒子のハミルトニアン、位置演算子と運動量演算子が代表的な例である。
離散スペクトルの場合、固有関数はヒルベルト空間の中にあって内積の存在が保証されるので、エルミート性から固有値が実数であることと、異なる固有値に対応する固有関数どうしが直交することを容易に証明できる。一方、連続スペクトルの場合は固有関数がヒルベルト空間の元ではないため、内積を用いるこの証明が通用しない。エルミート演算子であっても実数でない固有値に形式的な固有関数が対応し得るのであり、実際に🔒(26/08/05)運動量演算子は任意の複素数$p$に対して固有関数の形をもつ解を持つ。それにもかかわらず、実数固有値に対応する固有関数だけを集めれば直交性と🔒(26/07/18)完備性が成り立つのであり、ここで重要な役割を果たすのがディラックのデルタ関数である。
説明
演算子$\hat{Q}$が以下の固有値方程式を満たすとしよう。
$$ \hat{Q} f = q f $$
固有値の集合$\left\{ q_{n} \right\}$が離散スペクトルである場合、その固有関数は規格化とグラム・シュミット直交化を経て、クロネッカーのデルタで表される正規直交条件$\braket{f_{m} | f_{n}} = \delta_{mn}$を満たすように選ぶことができる。すると固有関数の集合が🔒(26/07/18)完備性$\sum_{n} \ket{f_{n}}\bra{f_{n}} = \hat{I}$を持つため、任意の波動関数$\psi$に対して次のように表すことができる。
$$ \psi = \sum\limits_{n} c_{n}\ket{f_{n}} \qquad c_{n} = \braket{f_{n} | \psi} $$
一方、固有値が連続スペクトルである場合には、固有関数はヒルベルト空間に属さない、二乗可積分でない関数である。たとえば運動量演算子の実数固有値$p$に対応する固有関数$f_{p}$は以下のような平面波であり、位置演算子の固有値$y$に対応する固有関数$g_{y}$はディラックのデルタ関数そのものである。
$$ f_{p}(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi \hbar}} e^{\i p x / \hbar}, \qquad g_{y}(x) = \delta (x - y) $$
ところがこれらの関数はヒルベルト空間に属さないので、内積$\braket{f_{p^{\prime}} | f_{p}}$がうまく定義されない。たとえば運動量演算子の固有関数を見ると以下のように整理されるが、$p = p^{\prime}$のときは被積分関数が$1$なので積分が発散し、$p \ne p^{\prime}$のときは被積分関数が振動して積分が通常の意味で収束しない。
$$ \braket{f_{p^{\prime}} | f_{p}} = \dfrac{1}{2\pi\hbar} \int e^{\i (p - p^{\prime}) x/\hbar} dx $$
これを解決するために少し難しい数学を用いると以下のように表すことができ、これをディラック規格化Dirac orthonormalityという。
$$ \braket{f_{p^{\prime}} | f_{p}} = \delta (p - p^{\prime}) $$
こうして連続スペクトルでは正規直交条件、展開、完備性が以下のように積分の形で表れる。
| 離散スペクトル | 連続スペクトル |
|---|---|
| $$\braket{f_{m}\vert f_{n}} = \delta_{mn}$$ | $$\braket{f_{p^{\prime}}\vert f_{p}} = \delta (p - p^{\prime})$$ |
| $$ \psi = \sum\limits_{n}c_{n} \ket{n}$$ | $$ \psi = \int_{-\infty}^{\infty} c(z) \ket{z} dz$$ |
| $$\hat{I} = \sum\limits_{n} \ket{n}\bra{n}$$ | $$\hat{I} = \int_{-\infty}^{\infty} \ket{z}\bra{z} dz$$ |
関連リンク
- 🔒(26/07/18)固有関数の完備性
- ディラックのデルタ関数
- 運動量演算子
- 🔒(26/08/05)運動量演算子の固有関数
- 位置演算子
- 🔒(26/07/20)位置演算子の固有関数
David J. Griffiths and Darrell F. Schroeter, Introduction to Quantum Mechanics (3rd Edition, 2018), p127-133 ↩︎
